10:顔が痛いのは三叉神経痛?

 顔を含め左右の耳を結んだ線より前方の頭部の痛みには、三叉神経が関係します。
 三叉神経は左右に1本ずつあり、脳幹から出て目の裏で三叉に分かれるのでこの名前があります。(「痛み」の総合研究:顔の痛みの分類と特徴に三叉神経の図を載せてありますのでご参照ください。)
 
 Eさん(60代男性)は、ある朝顔を洗うと左目の下にピリッと痛みを感じました。
 ほんの1,2秒だったので、はじめはあまり気になりませんでしたが、次第に痛みは強くなり、顔を洗ったり、ひげを剃ったりするたびに、ズキッと刺すような数秒の激痛が起こるようになりました。
 歯が悪いのかと思い歯科にかかりましたが、歯ではなく三叉神経痛だろうということで、脳外科を紹介されました。
 Fさん(70代男性)も同じように右頬の痛みを感じて歯科へ行き、三叉神経痛だろうということで、脳外科を紹介されました。
 二人とも脳外科ではMRIを撮り、顔の神経(三叉神経)に血管がぶつかっているということで手術を受けました。
 しかしEさんは手術後まったく痛みが出なくなったのに、Fさんは手術後も同じ痛みで苦しんでいます。
 
 この二人がなぜ、違う治療経過をたどったかということは、いろいろな原因が考えられますが、もっとも大きな理由は、Eさんは典型的な三叉神経痛でしたが、Fさんは似て非なる痛みであったということです。
 
 Eさんの場合、左眼の下を押すと飛び上がるくらい痛がる場所(トリガーゾーン)があり、周囲の皮膚は触ったり温度を感じたりすることには異常がありませんでした。
 つまりEさんは純粋に三叉神経が刺激を受け、痛みを出していたので、原因を取り去れば痛みは残らなかったのです。
 
 しかしFさんは違います。
 右眼の下を押すと痛がるのは同じですが、Eさんほどひどい痛みではなく、じりじりとした嫌な感じを常に奥歯のあたりに感じると言います。
 そして常に痛みとは違う重苦しい締め付け感があり、一度痛くなるとジンジンした灼熱感が長時間持続します。
 右頬の感覚はむしろ鈍くなっており、冷たさに強く反応して痛みが増します。
 
 この二人は同じ三叉神経痛と言われたのに何がちがったのでしょうか。
 Eさんは三叉神経が脳幹で血管などに圧迫を受けて顔面痛を出す典型的な三叉神経痛です。
 国際頭痛分類の診断基準にきちんと当てはまります。
 ところがFさんは、以前歯根部の病気で三叉神経に傷がついてしまい、その後遺症として三叉神経の痛みが出ていたのです。
 
 Fさんのような痛みを「三叉神経障害性疼痛」といいます。
 これは、傷ついた神経の断端から異常な信号が出続け、神経の過敏さが強まって痛みが持続するようになったもので、三叉神経痛の手術ではよくなりません(痛みの総合的研究参照)。
 
 顔面の痛みもいろいろなタイプがあり、治療も手術だけでなく、神経の過敏さを抑える抗てんかん薬や、神経ブロック治療、放射線治療(ガンマナイフ)、頭皮上からの磁気刺激、中枢・末梢神経の電気刺激などいろいろな治療を組み合わせて行う必要があります。
 また慢性化した痛みには不安とうつ、睡眠障害が3点セットで付随します。
 
 Fさんのような神経障害性の痛みは長期化することがほとんどで、痛みと不安で睡眠が取れなくなり、夜間に食いしばりなどで顎関節や頸部の筋肉が硬くなっています。
 またセロトニンも低下するため、気分が落ち込んでゆううつになります。
 すると痛みを抑える機構が働かなくなるため、更に痛みが増強するという悪循環ができています。
 また痛みの刺激が常に脳を興奮させ続けるため、脳に痛みの感覚が確固とした記憶として定着してしまっていますので、痛みの記憶を薄れさせる治療も必要です。
 
 顔面痛の治療では、このような複雑な状況を念頭に置きつつ、多方面から治療をすることが必要になります。
 

 

 
 
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