9:動脈が一時的に狭くなる?RCVSの謎

 Dさん(50代女性)はもともと片頭痛持ちでしたが、ある日、シャワーを浴びていると急にガーンと頭を殴られる様な頭痛があり、吐き気がして嘔吐し、救急車で脳外科の病院へ運ばれました。
 脳外科ではMRI検査で異常がなかったのですが、血圧が高く、頭痛がかなり激しいため、腰椎穿刺という髄液検査を受けました。
 その結果ごくわずかの血液が確認され、軽度のクモ膜下出血疑いで入院となりました。

 翌日MRI血管検査を再度受けたところ、入院時には何でもなかった動脈が部分的に数ヶ所狭くなっており、脳梗塞の発生防止のため血管拡張剤や血栓防止の薬などで治療を受けました。
 その間頭痛は毎日続きましたが、1週間程度で強い拍動性頭痛は収まり、3週間後のMRI検査で狭くなっていた動脈が自然に元に戻っており、1ヶ月後にはDさんは特に後遺症もなく退院されました。
 その後通常の片頭痛は起きますが、経過は順調です。

 Dさんの頭痛は可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)といいます。
 RCVSは比較的最近、疾患としての診断基準がまとまった病気で、臨床的には急な激しい頭痛(雷に打たれたようなという意味で雷鳴頭痛と言うことは前項で解説しました)を特徴とし、麻痺などの神経症候は伴うことも伴わないこともあります。
 原因は不明ですが、性行為やウェイトトレーニングなどの労作、急な感情変化や血圧の変動、寒冷、入浴やシャワーなどが引金となるとされています。

 脳血管検査では直後は異常がなくても、症状が出てから数日後に、脳動脈が数珠状に狭くなる所見を認め、それが1-3ヶ月以内に自然に元へ戻るといった特徴を有します。
 やや女性に多く起こり、平均年齢は40〜50歳程度ということです。
 原因不明が3割強、原因が特定されているのが6割程度で、産褥期、様々な薬物(大麻、選択的セロトニン再取り込み阻害薬、鼻炎用点鼻薬など)が多くみられたとの報告もあります。
 94%で繰り返す激しい頭痛があり、軽度のクモ膜下出血や脳虚血が合併することもあります。

 2010年以降、診断技術の進歩やこの疾患の知識が広まったことで、多く診断されるようになりました。
 今ではRCVSは従来考えられていたほどまれではなく、特に血管に影響する薬物に続発する頻度が高いとされています。
 予後は良好で、以前は死亡例も報告されましたが最近では報告されておらず、以前の重篤例はRCVSではなく他の血管炎などであった可能性も指摘されています。

 雷鳴頭痛は突然発症して数分以内にピークに達する頭痛ですので、RCVSの原因は不明ですが、特に脳動脈瘤破裂によるクモ膜下出血や脳動脈解離など命に関わる疾患ではないことを確実に診断する必要があります。
 75%のRCVSは雷鳴頭痛が唯一の症状であるとされています。
 ただし頭痛のピークと脳血管攣縮は時期的に一致していないため、血管の攣縮自体が頭痛の原因ではないと考えられます。
 
 ある研究では、急な血圧上昇で血管壁の内皮が損傷し、血液成分が漏れ出すのが原因ではないかとされていますが、いずれにせよ今後の更なる病態解明が待たれる二次性頭痛の一つであることは間違いありません。

 
 
 
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