7:眼の奥がえぐられる!群発頭痛の謎

 30歳のCさん(男性)は3月のある日、右眼の奥に違和感を覚えました。
 何となく苦しい感じで、涙が出ます。鏡で見ると目が充血しており、鼻も詰まった感じがします。
 30分程で違和感はとれますが、また2,3日すると起こります。
 眼科では異常なしと言われました。
 
 そうこうしているうちに、2週間後に少しお酒を飲んだところ、翌朝、眼の奥がえぐられるような激しい痛みで目を覚ましました。
 ものすごく苦しくて、居ても立ってもいられず、眼を押さえてウーッと呻るほどです。
 痛みは右眼だけで、涙がボロボロ出て鼻水も出てきました。歯も痛い感じがします。
 1時間ほどで痛みがスーッと消えて、眼の奥の違和感のみになったため、Cさんはすぐ脳外科の病院へ行きました。
 病院では頭部MRIを撮り、悪い病気はないので心配ないです、と言われ痛み止めを処方されました。
 しかし同じ発作がやはり明け方に毎日起こるようになり、痛み止めは全く効きません。
 Cさんはインターネットで当院を探され来院されました。
 
 Cさんの頭痛は群発頭痛です。
 人によって周期は異なりますが、大体1〜2年に1回、季節の変わり目に1〜2ヵ月間位(診断基準では2週間から3ヶ月)、毎日同じような時間に片側の眼の奥がえぐられるような強い痛みが起こり、大体1時間(15分から3時間)程度持続します。
 人によっては1日2,3回(2日に1回〜1日8回)も起こる人もいます。
 そのつらさは尋常ではなく、片目を抑えてウーッとうなり、じっとして居られずうろうろ歩きまわったり、壁に頭を打ち付ける人もいる程です。
 痛い側の目が充血し涙が出て、鼻が詰まったり、瞼が下がったりします。
 また歯に響く感じも出るようです。同時に後頭部が痛くなる人もいます。
 
 群発頭痛は30歳前後の男性に多く、患者数(有病率)は片頭痛の100分の1程度と言われていますが、実際には一般医で診断がつかず頭痛外来に集まる傾向が多いため、頭痛外来では比較的多く見かけます。
 最近ではネット検索で自ら正しい診断をして来られる患者さんもいます。
 
 原因は、季節の変わり目に自律神経の中枢である視床下部が衣替えをしますが、この時日内リズムを刻んでいる体内時計から一定時間に異常な信号が出るようになるためです。
 「目覚まし頭痛」という異名があるように、寝てから起こる場合が多く、寝付いて1時間半から2時間くらいが起こりやすい時間です。
 それ以外に2時、4時、明け方と、大体夢を見る睡眠であるREM睡眠の起こる時間帯に群発の発作が起きます。
 あまりに痛いので眼が覚めてしまいます。
 日中に起こる方もいます。
 
 視床下部からの信号は三叉神経と頸動脈周囲の自律神経を刺激して、片側だけの強い痛みが発生します。
 血管が腫れて神経を刺激するのですが、片頭痛とは違い拍動性にはなりません。
 例えていえば、虫歯の痛みの何倍もの痛みが眼の奥に起こると想像すると良いでしょう。
 血管が拡張すると痛みはさらに増しますので、アルコールや長風呂・激しい運動などは群発期には必ず発作を引き起こします。
 
 出来るだけ睡眠時間を規則正しくし、頭痛が起こったらすぐ、治療薬であるスマトリプタンの自己注射を使うことで発作は治ります。
 スマトリプタンの点鼻薬も片頭痛でしか保険適用とされていませんが比較的有効です。
 純酸素吸入でも治る人もおり、在宅酸素療法も保険適用になっています。
 血管が拡張して起こりますので、眼や首を冷やすと楽になります。
 しかしまた翌日もその翌日も起きるため、通常は群発期を短く終わらせるための予防薬も併用します。
 
 Cさんには初回であったため、呉茱萸湯(ゴシュユトウ)という漢方薬で予防を開始しました。
 その後Cさんの群発頭痛は次第に頻度も減り、1週間後には完全におさまりました。
 
 漢方薬で効果が出ない人の場合は、交感神経を抑える不整脈の治療薬や、抗けいれん薬の一種もある程度有効で、ひどい場合は炎症止めの作用が強い副腎皮質ステロイドを内服してもらいます。
 発作の強い人にはスマトリプタンの自己注射を使っていただいています。
 慢性化した場合は炭酸リチウムという向精神薬が有効であることが分かっています。
 ただ慢性群発頭痛の場合はなかなか治療に反応せず、内科的治療が無効の場合は、種々の神経ブロック治療や外科的治療を行わざるを得ない場合もあります。
 
 残念ながら、群発頭痛がなぜ起こるかという根本原因はまだ分かっていませんが、いろいろな治療で何とか早く群発期を終わらせることが、頭痛外来での治療の目標です。
 幸い年齢とともに群発頭痛は起きなくなる人が多いようで、50歳を過ぎると軽くなったり起きなくなったりする様です。

 
 
 
ホームページ作り方