6:中年男性の危機、慢性緊張型頭痛

 50代半ばのBさん(男性)は、最近頭痛がとれずすっきりしないということで筆者のクリニックを受診しました。
 
 2年ほど前からずっと重苦しい頭痛が続いていて、時々ふわっとめまいがするということです。
 ただ頭痛がしても我慢して動けますし、吐き気もなく、風呂に入ったりお酒を飲むと楽になるといいます。
 最近血圧も高く降圧剤を飲んでいるということです。
 体型はややメタボで、自分でも運動不足と認めています。
 診察では両肩の凝りが強いのですが、本人は押しても痛がりません。むしろ気持ちいいと言います。
 首や後頭部、顎の周囲の筋肉も硬くなっています。
 朝起きた時に背中や首が苦しいことが多いと言います。また日中はけっこう眠気が強いそうです。
 何か悪いものがあるのではと思い、外科病院には今まで2回行きましたが、脳のMRI検査では異常なく、マッサージや体操を勧められました。
 コリをほぐす薬も出ましたが、飲むとかえって眠くなるばかりで、すぐやめてしまいました。
 
 Bさんは首ばかりでなく肩甲骨の間の筋肉が硬くなっていました。これは睡眠が浅いことを現しています(痛みの総合的研究参照)。
 また顎の周囲の咬筋群が硬くなり、舌に歯形が付いていました。これは夜間に食い縛りを起こしている証拠です。
 
 頭痛が慢性化した頃のことをよく聞きますと、職場で同じ仕事をしていた同僚が辞めた影響で仕事量が増え、帰宅時間が11時を過ぎるようになったと言います。
 朝は7時までに出勤しますので、睡眠時間はどうしても短くなり、昼寝をする習慣がついたそうです。
 「きちんと寝ているのは3,4時間でしょうか」といいます。
 寝付きも悪く、早朝に目が覚めます。
 「休みたいのですが私しか出来ない仕事なので休むわけにはいかないのです」とBさんは力なく笑います。
 
 Bさんの頭痛は慢性緊張型頭痛です。
 自分の体に無理をかけてストレスに対抗しようとし、体力がなくなってきて慢性頭痛という身体症状が出てきたものです。
 何でも完璧にやり遂げなければ気がすまないという性格が、疲労にさいなまれている身体に鞭打って無理を続けさせてきたために、頭痛やめまい、息苦しさなどの自律神経失調症状を出してきたもので、典型的な心身症と言えます。
 
 筆者が以前調べたところでは、慢性緊張型頭痛を起こす方は、若いころは体力があり何でもできるという万能感があるため、少しくらいのストレスは体力に任せて乗り越えてこられます。
 しかし中年になると体力の低下や長年の不健康な生活習慣、女性では更年期などで次第に無理が利かなくなり、ストレスがかかると次第に頭痛・めまい・動悸などの身体症状を出しやすくなります。
 同時に睡眠もとれなくなり、自律神経のバランスが崩れやすくなります。
 「こんなはずではない」という感じで、がんばりが効かなくなってきます。
 それでも無理を続けていると、慢性睡眠不足のためやる気のエネルギーであるセロトニンが回復しなくなり、うつ状態になっていきます。
 慢性緊張型頭痛は高齢の方ではうつ病の身体症状であることも多いのです。
 
 Bさんには肩こりが取れるような漢方薬と睡眠衛生指導、それと生活習慣の改善、筋肉のリラックス法を繰り返し練習していただくことにより、次第に頭痛の頻度は減ってきました。
 同時に無理して頑張ることでしか自分は認められないという思い込みが背景にあり、そのような誤った認知を自覚し、頑張らないように力を抜いてもらうため、認知行動療法を行いました。
 
 緊張型頭痛にはこのほかに、すでに説明した様に筋肉自体に原因がある場合と、首の関節や神経が原因で頭痛が起こっている場合があります。
 一口に緊張型頭痛といっても、これらのタイプ(心身症、頚筋炎・筋筋膜痛、頚原性頭痛)を見分けて治療に結びつけなければ、慢性化した緊張型頭痛はなかなか良くならないのです。
 
 国際頭痛分類では緊張型頭痛を一次性頭痛、つまり原因疾患のない頭痛に分類していますが、以上のようにタイプ分類をした場合、頚筋炎・筋筋膜痛タイプと頚原性頭痛タイプは原因がはっきりしている訳ですから、二次性頭痛、すなわち原因のある頭痛に分類されるべき急性二次性頭痛になります。
 しかし現在ではまだ反復性緊張型頭痛として一次性頭痛の中に入れられており、このことは今後の国際頭痛分類の改訂によって明らかにされるべきポイントとなるでしょう。

 
 
 
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