学会イベント 第27回北海道頭痛勉強会 後記 更新 : 2017年7月15日

 それまでの低温が嘘のように夏日の暑さとなった平成2977日(金),ニューオータニイン札幌にて第27回北海道頭痛勉強会がファイザー製薬の主催行わました。会に先立ち1800よりファイザー製薬の片頭痛治療薬であるレルパックスの製品説明があり,1820より頭痛勉強会が開催されました。

 

 一般演題は2題発表されました。1題目は「頭痛・頚部痛のみを呈した椎骨動脈解離症例の検討」と題して,札幌医科大学 救急医学講座・神経内科学講座助教の外山祐一郎先生が発表されました。頭痛・頚部痛のみの椎骨動脈解離3症例とその他の脳梗塞やTIAを合併した症例との比較をされたもので,1例目は60才代の男性で高血圧の既往あり。右後頭部,頚部痛で発症,4日後脳外科にかかり,診察上異常所見はなかったものの,血圧が上昇しており第5病日のMRABPAS)で右VAがかなり拡張していました。Ca拮抗剤を点滴し血圧を下げ,痛みのVASは軽減。第11病日でVAは拡張しているが壁内血栓が見られたとのことです。第67病日にはVAの拡張は消失していました。

 2例目は50代の男性で,高血圧の既往があり血圧上昇と後頚部痛で発症しました。神経学的に異常なくNIHSS0点で無症候性ということでした。頚部痛のVAS9点で,21病日のMRAで右VA拡張が見られました。AGを行いpearl and string signが見られたため,VA解離と診断。血圧は入院時より190と高かったため降圧剤4種を併用して正常化し,VA拡張も消失したため退院としました。

 3例目は30代後半の男性で高血圧の既往あり。神経学的に異常がなかったため他院にて確定診断が付かず,発症1週間後にMRAで診断が付きました。第15病日には右VA9mmの動脈瘤状になっていました。血圧コントロールで頭痛は改善し,24病日で退院され,96病日にMRA上動脈瘤は消失したことを確認したそうです。

 上記3症例ともクモ膜下出血は認められず,保存的に血圧管理でMRA上解離の消失を確認できたそうです。先生は急性期のVA解離をこれまで46例経験されており,診断基準は高木らのものを用いました。内訳は28例が頭痛・頚部痛のみで,18例が症候性だったとのことです。頭痛のみの群は女性が多く,高血圧の有無は特に差はなかったようです。糖尿病は症候性に有意に多かったそうですが,他の生活習慣病は特に有意差はなかったとのことです。血管所見ではpearl signあるいはpearl and string signを呈した症例に頚部痛が有意に多かったそうです。今までの報告でも頭痛のみの発症は70%が女性ということでした。血圧上昇は必須で,降圧療法で改善するとのことでした。

 

 一般演題の2題目は「片頭痛と緊張型頭痛の違いについて」と題して北見クリニックの北見が発表しました。

 慢性頭痛の診療ガイドライン2013によれば,片頭痛は遺伝的体質を持ち,体内物質の変化に反応して痛覚神経の刺激により起こる侵害受容性疼痛として捉えられると考えられます。国際頭痛学会頭痛分類ICHDでは緊張型頭痛は二次性頭痛の表現様式としても捉えられており,精神的要素と切り離して,何らかの痛覚神経刺激による身体的疼痛であるという考え方で分類されています。
 しかし2005年に先天性無痛覚症の患者が,生涯で初めて強い情動負荷で痛みを訴えたとの報告がありました。それはICHD分類の緊張型頭痛の診断基準を満たす頭痛だったとのことでした。過去の報告では先天性無痛覚症の患者に血管拡張物質であるヒスタミンを静注しても血管性頭痛は起こさなかったということです。つまり緊張型頭痛は脳内事象の要素を持ち,脳内に特別な反応を起こす性格があるようです。すなわち情動と身体感覚の繋がりが悪いアレキシサイミア(失感情症)の性格傾向をもつ人が緊張型頭痛を訴えやすい傾向があります。

 また緊張型頭痛には,若いうちは過剰適応傾向で何とかごまかせるが,年齢とともに体力低下・睡眠障害による自律神経症状から,次第にうつ傾向が強まり頭頚部の頭重感にこだわるという個人史があります。端的にいえば片頭痛は遺伝的体質が関係する急性痛で,緊張型頭痛は性格傾向が関係する慢性痛と言えます。片頭痛体質と緊張型頭痛性格は共存します。時間経過で間歇的に軽微外傷,頚筋炎,作業関連筋痛から,頚筋筋膜性頭痛・頚原性頭痛などの末梢性要素が加わり,それぞれの病態を複雑にしています。睡眠障害は中枢性感作を来たし,どちらの頭痛でも慢性化に影響します。

 以上のような内容で発表しました。

 

 1900頃より北海道医療センター神経内科医長の藤木直人先生の座長のもと,「片頭痛とはどのような疾患か?」という大変興味深い演題名で,慶應義塾大学神経内科専任講師の清水利彦先生による特別講演が始まりました。本日の講演内容は,片頭痛の病態とその後一般的治療,治療薬研究の最前線,特にCGRP受容体関連について話されるということでした。

 片頭痛の有病率は大体8%,経済的損失は2880億円と試算されています。年3%の割合で慢性化するそうです。分類は国際頭痛学会のICHD3版ベータ版を用います。診断基準で注意すべきは,5回以上の発作がないと診断できないという点であるとのことです。次に前兆の話に移り,診断基準では1視覚,2感覚,3言語,4運動,5脳幹,6網膜の症状に分かれていますが,それらについて詳しく説明されました。
 次に片頭痛の病態の中心は
CSD,三叉神経感作,中枢神経過敏などが関係すると話されました。そしてこれまでの歴史的流れとして,片頭痛の血管説,神経説,三叉神経血管説について触れられました。

 血管説は1938年にWolffらがSTAの拍動と頭痛が関係することに注目し血管拡張が片頭痛の原因としたものです。1940Awake Surgeryにて硬膜血管や頭蓋底の神経刺激が痛みを起こすことが確認され,神経説が提唱されました。その後サブスタンスPCGRPが関与することが確認され,Olessen1990年に血管の拡張と頭痛との間に解離があることから,血管の拡張が原因ではないと発表しました。ここで5HT受容体が注目を浴び,トリプタン製剤の開発につながったのですが特に5HT1F受容体は最近注目されます。1FアゴニストのLY334370Lasmiditanなどが血管反応性をもたない治療薬として一時期待されましたが,LY334370は肝障害の副作用で中止となりました。Lasmiditanはまだ開発継続中だそうです。さらにSpreading oligemiaCortical spreading depressionが同じ病態であることが分かり,人間でも確認されました。(Hadjikhani2001年)。

 前兆はCSDかということで多くの研究が血管反応と頭痛との関係でなされましたが,MMAの拡張は確かに片頭痛と関係していますが,外頚動脈自体は変化しないということが分かりました。すると血管拡張自体が三叉神経感作を起こすのかということになり,三叉神経感作に関係するのはやはりCSDだろうということになります。CSD時に三叉神経節内のERKリン酸化が起こりますが,これはTRPV1の刺激によるものだそうです。CSDTRPV1を介し三叉神経節を感作するとされます。またもう一つの経路としては下行性疼痛抑制系があります。これはアロディニアと関係し,PAGPFCACCの抑制,Pain matrixが機能異常を来たしています。様々なことが考えられていますが,病態はまだ不明な点が多いと言わざるをえません。

 治療に関してですが,ガイドラインでは予防が勧められるのは月2回あるいは6日以上の患者で,予防薬としては現在CGRPを標的にした製剤が開発されています。CGRPは特に三叉神経節脊髄路核に多く存在します。先生はCGRP受容体の構造を詳しく説明され,CLRRAMPPCP,血管以外に硬膜,肥満細胞,その他に存在するということを話されました。もともとはGoadsbyが片頭痛発作中に頚静脈血内にCGRPが増えていることを報告したことに端を発しています。8.1.8.1に既時型CGRP誘発頭痛という項目があるように,片頭痛発作とCGRPは重要な関係を持っています。

 まず低分子CGRP受容体拮抗薬としてOlcegepantTelcagepant,その他が開発されましたが,多くは治験段階で中止となりました。唯一Ubrogepantのみ2016年に治験結果の進捗状況が報告されました。次にCGRP抗体療法が4剤あり現在治験中です。AMG334TEV48125LY2951742などで,現在の状況などを詳しく説明いただきました。CGRPの局在については三叉神経脊髄路核などの他,末梢および中枢神経にも存在しています。実際には中枢神経のCGRP受容体占有率が低いにもかかわらず効果が得られており,AMG334140mgで効果があります。その他も有効性が示されていますが,中枢神経のCGRP受容体占有率は低いのだそうです。これは免疫グロブリンの髄液移行が低いことと関係するようで,発作,非発作でBBB透過性に変化はないことが分かっています。以上のことより,CGPR抗体療法の作用点はBBBより末梢である可能性が指摘されてきているそうです。

 現時点までの新しい治療薬の詳しい情報を教えていただきましたが,まだこれから詳細な病態解明がなされることが期待されるとのことでした。会場からも活発な質問が寄せられ,充実した勉強会になりました。

 

 来年はまた同じ時期に, 北海道頭痛勉強会とエーザイ株式会社との共催で開催予定です。

文責:北見

 

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