学会イベント 第26回北海道頭痛勉強会 後記 更新 : 2016年7月27日

 去る平成28720日(水),札幌グランドホテルにおいて第26回北海道頭痛勉強会が開催されました。昨日までの肌寒さも解消され,気温25℃程度で札幌本来の爽やかな夏らしい日になり,56名の医師の方のご出席をいただきました。18005分程過ぎた頃から,今回の共催メーカーであるファイザー株式会社から,片頭痛治療薬「レルパックス」の製品説明があり,1820頃より会が開催されました。

 

 一般演題の1題目は「当院で経験した可逆性脳血管攣縮の症例」と題して,平岸脳神経クリニック院長の及川光照先生が発表されました。

 可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)は雷鳴頭痛で発症し,予後の悪いこともあります。症例は40才代の女性で,胃痛・腹痛で発症。コメカミがガーンとなったということですが2時間後には軽減。翌日来院されました。受診時血圧133-66,コメカミがずきずきすると訴えました。既往に慢性頭痛があり,市販薬を服用していました。咳嗽による頭痛やSAHの家族歴なし。MRIでラトケ嚢胞か下垂体出血を疑う所見があったため入院治療となりました。MRAは撮像法のため細く見える場合があり,はじめは異常なしと診断しました。しかし入院後MRAで左中大脳動脈,後大脳動脈にスパズムが明らかとなりRCVSと診断したとのことです。

 入院後も雷鳴頭痛は持続し,トリプタン系薬剤は禁忌ですので,ベラパミル,プロプラノロールなどで治療しました。頭痛の強さはDay2が1010Day4に810Day5に710Day6には1210となり1週間で軽快し退院。その後Day19に外来にてMRAを行った所,まだ左MCPCに強いスパズムを認めました。症状とスパズムのギャップには注意が必要で,頭痛が改善傾向の時に強いスパズムを併発し,脳梗塞を呈する可能性があることを念頭に置く必要があります。その後は、頭痛は軽度でしたが,Day49にもMRA上スパズムは続いており,Day70MRAでやっとスパズムが消失したとのことです。

 雷鳴頭痛は一次性と二次性があり,MRAで初回異常がないと判断されても症状が続く場合,RCVSを疑って再検は必須です。ICHD-3βでは6.7.3に分類され,MRAでの典型的な所見は23日出ないこともあります。発症から1ヶ月で大体改善するそうです。MRAでは10日から2週目が最も明らかになるとされます。はじめは原因不明で,他の一次性頭痛と間違えやすく,見逃さないためには問診をきちんとすることが大切です。特徴的な表現,例えば爆発するような痛み,痛みでうずくまる,などは要注意です。市販薬で改善することもあります。詳しい問診表が大事で,先生は自院のHPに独自の頭痛問診票を掲載しているそうです。
 治療はトリガーを回避し,腹痛なども初発になるので,息ませないようにマグネシウム製剤を投与することも必要です。またベラパミル,ロメリジンなどが推奨され,血圧に注意してジクロフェナクも使用するそうです。血管作動性の薬やトリプタンは禁忌です。繰り返す雷鳴頭痛の場合はRCVSの可能性についてインフォームドコンセントが必要であると強調されていました。

 

 一般演題の2題目は「椎骨動脈解離の2例」と題して旭川赤十字病院神経内科の黒島研美先生が発表されました。旭川赤十字病院は急性期病院であり,脳卒中急性期の患者が多いのですが,後頭蓋窩動脈解離は45%が椎骨動脈で,脳梗塞発症は20%とのことです。日本の統計と欧米のものとは頚動脈/椎骨脳底動脈解離の比率が異なるそうです。

 症例1は30才代の女性。目の奥の痛みで受診されました。カイロプラクティックで頚部を回した時バキッと音がしたそうで,その後頭痛が出て5日後に受診されました。MRAで両側VAの壁不整が見られ,3DCTAで解離が確認されました。神経学的所見がなかったため血圧コントロールで保存的に治療し,2ヶ月後には解離は自然寛解したそうです。

 症例2は30才代の男性で,頭痛,左半身しびれ,メマイ,複視を主訴として受診されました。合併症は脂質異常症がありました。また以前から緊張型頭痛と前兆のない片頭痛がありました。神経学的に左眼球下転制限,小脳症状を認め,DWIで左小脳虚血が確認されました。発症時に頚部回旋運動でやはりバキッと音がしたそうです。MRAではBPASで映しづらい水平部で,CT3DCTAで確認しました。6日目に脳幹にDWIで高信号が出現しました。

 これら2症例とも頚部急速旋回で発症しています。以前からカイロプラクティックでは椎骨動脈解離が起こりやすいのではないかと言われていましたが,それに対する研究は少ないそうです。先生は論文を2つ挙げられましたが,2論文いずれもカイロプラクティックとPCP(家庭医による治療)で脳梗塞の発症には有意差ないとのことです。2009年の論文では,カイロプラクティックの合併症は3369.9%報告されており,その内100,000回で5回脳梗塞の発症が報告されたそうです。一般的な脳梗塞の発症頻度との比較は,原著が手に入らなかったので,これをもって有意に危ないと言えるかについては分からないということでした。
 脳卒中ガイドラインからは脳梗塞発症頻度は人口
10万人対100200,うちラクナ,アテローム,心原性塞栓を除く「その他の脳梗塞が6.1%」とされており,恐らく動脈解離による梗塞はこの中に含まれると考えられます。この中の解離の頻度を考えると,頚部に急速に回旋性外力を加えるカイロプラクティックなどによる10万対5の発症率は,その他の原因による解離性梗塞に比べやや高いかも知れないと結論されていました。また脳底動脈と違い,椎骨動脈頭蓋内移行部はBPASなどで画像が得られにくい場所であり,造影CT3DCTAの有用性を強調されていました。

 

  1900少し前から山口大学脳神経外科教授の鈴木倫保先生による特別講演が始まりました。先生は「頭痛,くも膜下出血,皮質拡延性抑制」と3題を挙げて,それぞれに興味深い内容で話されました。

 まず脳外科医の愚痴として,脳動脈瘤の手術が何とかうまく行っても,術後確認の血管造影をやっていたのに,De novo動脈瘤を見逃し,それが破裂してSAHになった関連施設での症例を出されました。このようなケースで呼ばれて,家族と主治医との板挟みになって,SAHは大変,手術が未熟だとトラブルが多いと愚痴られました。

  SAHは人口10万人に対し年間22.7人の発症率で,訴訟も多く,平成18年に医師に対して15559万円の賠償命令が出たそうです。SAHの頭痛はWorst headache of lifeといわれる雷鳴頭痛であり,頭痛救急患者の約1%がSAHですが,SAH患者の2割は一般臨床医を受診し,一般医では2125%の見逃しがあるとされています。Community basedの統計では21%が診断遅れ,13%で再出血が見られたそうです。Hospital basedの調査は80-90年代に行われており,宮城では5.1%,山形では7.8%で脳外科施設でのSAH見逃しがあったそうです。

 三次救急病院の山口大学脳外科に紹介されたSAH患者さんで,一,二次施設に救急搬送された方は67%, Walk in32%でしたが,Walk in1/4が初診時見逃しだったそうです。つまり初診時にやはり21%がSAHと診断されなかったことになります。画像診断が大切ですが,CTの感度は3日目以後かなり低下するとされます。またMRIFLAIRでの診断は5日以内が敏感でそれ以後はT2*が良いということになります。またFLAIRの冠状断などで明らかになる軽症SAHもあるそうで,撮像条件や撮像法を工夫する必要があります。

 腰椎穿刺はCTMRIが陰性でもやるべきだとヨーロッパの診断基準には書かれており,AHAも同様だそうです。カナダにはOttawa ruleというものがあり,Rule 1には40歳以上,首の痛みや硬直,目撃者のいる意識消失,労作時の発症,があればSAHである感度が98.5%とされました。ただこれはあまりCTなどの診断機器が普及していない国での代替策と考えるべきで,日本などではまずCTMRIで診断を付ける方が良いと言われました。
 動脈解離についても初発症状の
18%がめまい等診断が難しいことがあります。何か変だと思ったら躊躇せずCTMRIを撮ることが必要です。SAH3日以内が多く,2週間が過ぎると出血の危険性はなくなります。BPASなどで診断することが必要です。SCAD (Spontaneous craniocervical arterial dissection)の半分は虚血発症で,1/4が出血です。

 ここでまた先生の愚痴が入りますが,未破裂をコイルで治療するようになって,自称クリッパー(開頭クリッピングを主に行う脳外科医)の先生には,コイルではどうしようもない血豆動脈瘤など特殊なものしか回ってこない,あるいはコイル後にコンパクションを起こしてクリッピングを依頼されたり,コイルが末梢に迷入してサルベージを行ったりした症例の術中ビデオを示されました。

  2013年までのAll Japanの統計で未破裂脳動脈瘤は手術が増えている一方,破裂脳動脈瘤の減少はたった一割というデータがあり,脳ドックで発見された未破裂脳動脈瘤の出血予防には,手術以外にも禁煙・降圧等様々な治療の効果が影響を及ぼしているのだろうと考察されていました。開頭後の急性頭痛は14%で見られ,その67%は治りましたが,持続性頭痛は5%であったそうです。また術前片頭痛だったケースが術後治ることも多く,機序は不明ですが開頭は片頭痛の治療になるかとやや冗談ぽく話されました。浅側頭動脈や中硬膜動脈が切断される,或いは三叉神経硬膜枝の遮断のためでしょうか。また片頭痛の病態について解説され,エレトリプタンは作用機序からもファーストチョイスになると話されました。

 次に先生は片頭痛の皮質拡延性抑制(CSD)について群盲象をなでる?鵺(ぬえ)?という話をされました。この研究の元になった故濱田先生のMigraine generatorのご業績も紹介されました。CSDはもともと1944年のLeãoが脳虚血時に脳波でニューロンの過剰興奮とその後の抑制が進行する様子をとらえたのが始めですが,Hadjikhani2001年にfMRIを用いてSpreading oligemiaとして画像を報告してから脱分極が拡延するということがCSDの始まりに必要であるということが分かってきたそうです。

 先生の教室でのCSDの可視化についても詳細に研究結果を提示なさいました。CSDは脳虚血を引き起こすため,脳卒中リスクとなり得ます。実際脳卒中と片頭痛の関係は,前兆があるかないかで明らかに異なり,ピルや喫煙も含めて脳卒中リスクが増すことが知られています。
 また
SAHでもCSDが起こることを示されました。CSDを脱分極が動く現象と捉え,その後に乏血域が26mm/minで広がるそうです。脳梗塞や外傷でも起こります。SAH後,CSDは主幹動脈の攣縮とは独立して末梢の脳循環低下を引き起こし,遅発性神経学的脱落症状を引き起こすのではと考察されまし
た。
  SAHCSDが発生する過程にはK濃度上昇が関係します。この様子を動物実験で可視化された映像も興味深いものでした。Caチャンネルが開き興奮性アミノ酸が放出される様子を硬膜下電極で捉えられるとのことでした。CSDの前にSpreading depolarizationが起き,その程度を,脱分極のCluster,血管造影での脳循環評価 (Time-density curveMMT)などを組み合わせて評価するそうです。SAH後のSpasmCSDによるのではないかと強調され,現在では硬膜下のAll-in-one電極を作成して研究中とのことでした。

 非常に興味深い内容で,今後の研究の進化から目が離せない領域と思われました。質疑応答も活発で出席者もかなり興味をかき立てられた様です。先生の秀でた話術と共にあっという間に過ぎた1時間でした。

 
 次回も来年の同じ時期に頭痛勉強会の開催を予定しておりますので,今回ご出席の皆様方のみならず,頭痛医療に興味をお持ちの方々に更にご参加いただける様,世話人一同で努力していく所存です。

文責:北見

 

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