学会イベント 第25回北海道頭痛勉強会 後記 更新 : 2015年7月19日

 去る平成277 9日,KKRホテル札幌にて第25回目となる北海道頭痛勉強会が開かれました。今回はほとんどが医師の方で60名ほどが出席されました。共催メーカーのエーザイ株式会社による「マクサルト」の製品説明の後,1820頃より一般演題の講演が開始されました。

 

 一般演題①は「頭痛と脳神経障害を呈した特発性肥厚性硬膜炎の一例」と題して,札幌医大神経内科の安食さえ子先生が発表されました。

 内容は頭痛と脳神経障害で発症した特発性肥厚性硬膜炎で,症例は30代男性。2月初旬より左目奥と側頭部の痛みで発症。左三叉神経第2枝領域の感覚障害と左眼瞼下垂が出現し,左目は全方向性眼球運動障害となりました。
 血液検査で
WBC増多はあるものの,CRP0.19と陰性。自己抗体反応陰性,カンジダ陰性で,アスペルギルス抗原のみ院内の検査で陽性だったとのことです。DMや副鼻腔炎はなし。
造影MRIで左海綿静脈洞が増強され,特に左三叉神経第2枝と第3枝に沿って強く造影されていました。その後外注検査でアスペルギルス抗原は陰性であったこと,その後の再検にて複数回連続で陰性であったことから抗真菌薬は中止しました。
 症状は頭痛,眼瞼下垂と眼球運動障害が悪化していき,検査の結果,
Tolosa-Hunt症候群もしくは特発性肥厚性硬膜炎の可能性が考えられたため,プレドニゾロン投与を開始しました。頭痛の性状は突発性や拍動性などはなく,とにかく痛いというものだったそうです。画像所見で海綿静脈洞部の左V2V3に沿って硬膜肥厚あり,症状の時間経過よりICHD-3βの7.3.3その他の非感染性炎症疾患による頭痛のうちの特発性肥厚性硬膜炎による頭痛と診断したとのことでした。
 この症例はプレドニゾロンが奏功し頭痛や眼球運動障害,眼瞼下垂は改善したそうです。肥厚性硬膜炎と診断した根拠と鑑別診断,治療法について述べられました。

 

 一般演題②は「寒冷刺激によって誘発された頭痛の1例」という題名で,中村記念病院神経内科の仁平敦子先生が発表されました。

 症例は50代女性。ある年の7月に急に寒いと思った時に頭痛が起こったそうです。それまでも冷たい物を摂取すると頭痛が起こっていたようです。一般検査では血圧がやや高い位で特に異常なし。その時点では4.5.1の外的寒冷刺激による頭痛を疑っていたそうです。
 しかし頭部
CTでは軽症のSAHが見られ,FLAIRで確認されました。脳血管造影,MRAでは動脈瘤などは確認できず,non-aneurysmal SAHでした。その後も3割程度の頭痛が続き,寒冷,運動時に増強しました。7日後のMRAで多発性にspasmを確認し,17日後のMRAspasmは消失。2ヶ月後には頭痛も改善していたそうです。
 診断は
6.7.3RCVS(可逆性脳血管攣縮症候群)による頭痛と確定されました。鑑別診断はPACNS(中枢神経限局性血管炎),SAH,動脈解離などです。頭痛の経過とRCVSの雷鳴頭痛の引き金として労作,入浴,シャワーなどがあるので,寒冷刺激で誘発されたと考えられたとのことです。

 

 特別講演は「トリプタンが効いた二次性頭痛」と題して,仙台頭痛脳神経クリニック院長である松森保彦先生がご講演されました。

 初めに先生は,決して二次性頭痛にトリプタンを推奨する内容ではないと断られました。

 症例140歳男性。慢性頭痛で外来にかかって,CTでははっきりしないがMRIFLAIRSAHがあった例です。山形で連続293例のSAHを調べた所,初診が脳外科以外の内科などであった場合は4816.4%あり,全てwalk-inSAHでしたが,その内2347.9%が見逃されていたそうです。
 このように以前から脳外科医は絶対に二次性頭痛を見逃さないよう教育され,頭痛の診断が二次性の否定に偏向していたため,二次性頭痛ではないと分かるとホッとして,鎮痛剤を処方して返すということになります。このことが片頭痛を含む慢性頭痛患者の適切な治療が遅れ,患者も病院へ行っても何もしてもらえないと思い市販薬で我慢する,という事態につながって,従来の頭痛診療の問題点でもあった訳ですが,頭痛専門医が診療するようになり,かなり変わってきました。
 松森先生が以前勤務されていた広南病院は年間
6000人ほどの新患が受診する病院ですが,頭痛外来ができてから診断が変わったということです。つまり専門外来以前は緊張型頭痛が多かったのですが,専門医である松森先生が診察を始めてから片頭痛が85%とかなり多くなり,原因不明の「ただの頭痛」は当然ながら圧倒的に減ったとのことです。片頭痛は生活に支障をきたす頭痛であるため外来を受診しやすいと推察しているとのことでした。
 しかし本来はまず二次性頭痛を否定するということが大切なのは間違いありません。一次性のような二次性頭痛,羊の皮を被ったオオカミ頭痛(間中先生)を見逃してはいけないと強調され,症例を
4例提示されました。

 症例253才男性。これまでも片頭痛があった方で,今回は7日たっても頭痛が良くならないと受診されました。片頭痛の重責状態と診断し,MRAを撮った所,左椎骨動脈解離が見られました。解離診断には通常のMRAで狭窄し,BPAS像で外径が正常であるものとしているそうです。4ヶ月後のフォローアップで狭窄部に動脈瘤が生じており,コイルできれいに詰めた像を出されていました。

 症例351才女性で月12回月経前などに頭痛があったそうですが,頭痛が止まらなくなったと受診され,また片頭痛の重責状態と診断しました。しかしMRABPAS像で解離が確認されたそうです。このケースは保存的治療で頭痛も治り自然開通したとのことです。椎骨動脈の解離の初発症状は58%がSAH33%が虚血,頭痛のみは7%とされているそうです。

 症例459才女性で未破裂脳動脈瘤による左動眼神経麻痺で発症したケースでした。この場合は診断は容易ですが,次の症例のような場合は注意を要します。
 75才女性で締め付け感が主体の頭痛であったためFTTHと診断していました。2ヶ月後には前頭部痛と目の奥が痛いと訴え受診。群発頭痛の疑いで頭部MRIFLAIRでも異常なし。MRAでは左内頚後交通動脈瘤が見られ,経過を見ていましたが左動眼神経麻痺と眼深部痛で再受診となり切迫破裂ということで緊急開頭手術になりました。このような動眼神経麻痺の未破裂脳動脈瘤を14例経験し,眼窩奥痛が7割に見られたとのことです。更に前哨頭痛は12mm以下のもので見られました。
 この眼窩後部痛ですが原因は動眼神経外壁の三叉神経第一枝の刺激か,動脈瘤壁,あるいは周囲の硬膜の知覚枝の刺激で起こるものと予想されました。

 また別ジャンルの症例ですが,片頭痛の既往のある20才男性が雷鳴頭痛を自覚されて受診されました。CTでは異常なく,FLAIRで脳表にSAHが確認されました。
 この症例は
RCVSでしたが,片頭痛関連だったためトリプタンが最初に使われて効果があったとされていました。この場合,併発する片頭痛にトリプタンが効いた可能性もありますが,RCVSではトリプタンは禁忌であり,二次性頭痛をきちんと除外診断しなければならないことを教えている症例でした。

 以上のような羊の皮を被ったオオカミ頭痛は片頭痛のように見えて軽症SAHや動脈解離だったり,SAHの前哨頭痛あるいはRCVSだったりします。他にもてんかん性頭痛や三叉神経痛などで鑑別に注意を要します。片頭痛と脳卒中による頭痛とはいずれもトリプタンが効く可能性があり,トリプタンを診断的投与してみることには慎重でなければならないと強調されていました。

 非常に示唆に富む発表だったと思います。

 

 活発な討議の後に今年度の北海道頭痛勉強会は閉会となりました。来年も同じような時期に会を開催したいと思っています。

文責:北見

 

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