学会イベント 第16回北海道頭痛勉強会後記 更新 : 2009年7月22日
 去る7月10日金曜日,18:00よりホテルオークラ札幌にて第16回目の北海道頭痛勉強会が開催されました。冒頭,共催メーカーであるファイザー株式会社より,片頭痛治療薬レルパックスの商品説明と,片頭痛診断のための資材やメーカーとしての片頭痛啓蒙のための取組などが紹介されました。

18:10より一般演題がはじまりました。

一般演題1.可逆性脳血管収縮症候群の1例 
脳神経外科・心療内科 北見クリニック 北見公一
症例は50代女性で,主訴は,当院受診の半月前に突然の強い頭痛があったというものです。もともと月数回の前兆のない片頭痛がありましたが,半月前,急に前頭部を殴られるようなひどい頭痛(雷鳴頭痛)があり,近くの脳外科でMRAにて右内頚動脈系がほとんど描出されず入院となりました。神経症状はなく頭痛は翌日には改善し,MRA所見も正常になりました。頭部MRIは全く異常ありませんでした。退院後半月して普通の片頭痛が起きたため,当院を紹介され受診しました。神経学的陽性所見は半月前も初診時も見られず,紹介医初診時MRAがあまりに劇的であったためトリプタンは使用せず,呉茱萸湯とロメリジンで予防し,通常の鎮痛薬で様子を見ていますが,1年経過した現在まで雷鳴頭痛も脳血管収縮も再発はしていません。可逆性脳血管収縮症候群(RCVS)は,臨床的に激しい頭痛があり(神経学的症候は伴うことも伴わないこともある),脳動脈のstring and beads所見を認め,それが1-3ヶ月以内に自然寛解するといった特徴を有します。これまでにMigrainous vasospasm,Migraine angiitis,Drug-induced cerebral vasculopathyなどを含めて多くの名称で報告されています。1988年のCallらの報告によりますと,自己限定的(病状経過が患者に限って一定していること)症候群であり,繰り返す突然の激しい頭痛(一次性雷鳴頭痛),嘔気嘔吐や光過敏,全身痙攣,TIA,あるいは片麻痺や皮質盲などの神経脱落症状を残存する場合もあります。3名は昏睡から死亡したと報告しています。ウィリス輪の主幹動脈に起こる広範な血管攣縮が特徴で,後頭葉に起こる場合はPLES (Posterior leukoencephalopathy syndrome)との鑑別も必要となります。突発的な血圧上昇と関係し,子癇や腎疾患,高血圧性脳症,シクロスポリン,γグロブリン製剤,αインターフェロン投与などで報告されています。治療はRCVSではCa拮抗薬が有効との報告があります。国際頭痛分類2版では6.7.3中枢神経系の良性(または可逆性)アンギオパチーによる頭痛として掲載されています。

一般演題2.11年後に再発した肥厚性硬膜炎の一例
札幌医科大学 神経内科 保月隆良 先生
保月先生は50代半ばの女性で11年後に再発した特発性の肥厚性硬膜炎の症例を発表されました。主訴は頭痛,右眼奥の痛みで,初発年5月から複視が出現し,トロサハント症候群の診断でプレドニゾロンが開始されました。同年には左右の末梢性顔面麻痺で再発し,MRIで右海綿静脈洞付近が造影されました。CRPは陰性で,再度ステロイドを投与し症状は次第に改善し,ステロイドも離脱できました。その後11年後に眼痛,複視,右外転制限が再発し,他は特に問題なかったようです。頭部MRIでは再発前と同様に右海綿静脈洞部が増強されました。真菌マーカーは陰性,サルコイドーシスの特徴もなかったようです。頭痛から23日後にMRIでも増悪無く,頭痛と外転神経麻痺に対しプレドニンが投与されました。その後眼痛は7日で改善,外転神経麻痺は20日,複視は150日で改善し,現在プレドニンを漸減,中止予定とのことです。特発性肥厚性硬膜炎は原因不明であり,症例報告が主ですがその中から報告を2件引用されました。1件は『交代性顔面神経麻痺を来した特発性肥厚性硬膜炎の1例』(杉浦ら:Facial N Res Jpn 23:153-155 2003)で,これは本例同様に多彩な脳神経症状を呈し再発もしたがステロイドにより改善した例です。症状が頭痛のみであった肥厚性硬膜炎の症例も見られ,昨年西田らにより,頭痛学会誌に掲載されました(日本頭痛学会誌35:96-98,2009)。片側の眼痛を伴う頭痛にはこのような疾患も念頭に置く必要があるようです。また肥厚性硬膜炎を疑った場合は,造影MRIが診断に重要とのことです。

特別講演:「そこが知りたい!片頭痛治療のコツと落とし穴」
東京女子医大脳神経センター頭痛外来講師 清水俊彦先生
19:00少し前から,ご多忙な中東京よりお出で頂いた清水俊彦先生に,特別講演をいただきました。まず先生は本日の講演内容として,トリプタン製剤の使い分け,服薬タイミング,薬物乱用頭痛について,片頭痛の共存症,ご自身が力説されている帯状疱疹と片頭痛の関係について,そして最後に片頭痛と緊張型頭痛の肩こりの違いについて話される予定とされました。まず学生への試験問題で,片頭痛と緊張型頭痛の違いについて質問する,という話題に触れ,緊張型は頭痛以外に症状がないが,片頭痛は頭痛以外に多彩な症状があると書くと正解となるようです。片頭痛は明らかに脳の病気であり,特に前兆ありの片頭痛はてんかんと考えても良いのではないかと話されました。頭痛のみでなく種々の自律神経症状を呈し,ADLはかなり低下します。
トリプタンの使い分けでは,スマトリプタンはリーティングトリプタンであり,海外ではトリプタンというとスマトリプタンのことだそうです。作用点が末梢で中枢に入らないのが特徴ですが,吐き気を抑えられない点と胸部絞扼感やアロディニアなどの副作用が出やすいのが問題とのことです。その弱点を解消するために開発されたのがゾルミトリプタンで,スマトリプタンの弱点を補うべく,40%が脳内で活性を持ちます。しかし眠気,だるさなどの副作用がでることもあるようです。エレトリプタンは体内からのwashoutが早く,T1/2が長いのが特徴ですが,やや速効性には欠けるのが欠点です。残念なのは容量が少ないことでやや弱めな感じは否めませんが,副作用が少ないのも利点です。リザトリプタンは早く効いてくるのですが,やや早めに切れる,すなわち速効性は一番ですが早く切れるので時に再発が多いと言えます。ナラトリプタンはゾルミトリプタンをベースに開発され,効果発現がゆっくりですが持続時間が半日以上というのがウリです。しかし片頭痛時には消化管の蠕動がストップするため,内服薬や点鼻薬では効果が得られないことも多く,このような際には自己注射が良いとされました。これについては日本頭痛学会でガイドラインを作成したことを報告されました。
次に先生は多くの有名人を診察されていますが,その方々のコメント(舞の海など)を報告されました。特に薬物乱用頭痛に至っているかたが多く,脳の過敏さを取るようにして改善されたという患者さんご自身の話が出されていました。
治療についてですが,以前使われていたエルゴタミンの分子構造には,ドパミンやノルアドレナリン,不完全なインドール環などに似た構造が含まれており,実際のセロトニンとはやや異なる訳ですが,トリプタンにはインドール環が含まれており,自然のセロトニンと同じ構造をしており,従って片頭痛に特異的に効くのは当然ということでした。
またアロディニア症状の見分け方として,顔面頭部のアロディニアでは,片頭痛時はコンタクトレンズが痛い,洗顔・洗髪ができない,額に冷却シートが貼れない,痛い側を下にすると寝られない,などに注意をすると良いと話されました。また上肢アロディニアでは、痛い側と反対側の上肢や体幹の過敏や,しびれを訴えるようです。頭痛の約60~80%にアロディニアがあるとされ,片頭痛を長年放置し,発作回数が頻回になり,やや薬物乱用気味になると,出現することが多いとのことでした。
予防薬は脳の過敏性をとり,片頭痛特有の本来の辛い頭痛だけにする効果があります。予防には治療のメリハリをつけること,不安恐怖を取ることが大切と話されました。頭痛治療ガイドラインのみでは難治性の片頭痛の治療は困難であり,治療はガイドライを踏まえたうえで,テーラーメードでなければならないとされていました。予防薬ではインデラルはβブロッカーで脳の過敏さを抑制します。またスタチン系薬剤のクレストール,降圧剤のブロプレス4mg,ロイコトリエン受容体阻害薬,抗てんかん薬のトピラマートなども予防効果を期待できるようです。
次に先生は子供の片頭痛に触れられ,子供の時に抑えておくことが大切とされました。睡眠時間を規則正しくし,朝食を抜かないなどの生活指導が大切と述べられました。片頭痛は脳の過敏さが原因のため,落ち着きない子は片頭痛と思ってよいとのことです。
共存症についてはうつ,副鼻腔炎,気管支喘息,脳梗塞,ヘルペスについて話されました。気管支喘息ではロイコトリエンが関係し,血小板の表面と脳血管壁にその受容体がありますが,片頭痛時に血小板が活性化され,セロトニンが異常に放出されるため,ロイコトリエン受容体拮抗薬でセロトニンの異常放出を予防できるとのことです。脳梗塞などの脳の病理と関係する話題として,片頭痛患者でインシュリン感受性低下が報告されているとのことです。すなわち脂質代謝が悪くなりLDLコレステロールが上昇し,動脈硬化から脳梗塞になりやすい可能性があるとのことです。この部分でスタチン系薬剤のクレストールは有用とのことです。また帯状疱疹ウィルスは三叉神経節で活性化しアロディニアを起こしやすく,DNAウィルスですが,片頭痛におけるBOTOX治療の効果の作用機序にも関係するのではと言われています。月経時や糖尿病併発時などの免疫が低下した状態では活性化されやすいとのことでした。
最後に先生は片頭痛に肩こりが多いことを指摘され,今までの話の流れから,肩こりは三叉神経核の興奮性が引き金になる下行性のアロディニアではないかとも話されました。非常にユニークな発想で,フロアかの質問に対して,片頭痛は女性に多く排卵日や月経前に強い発作が起こりやすいのは種族を守り,子孫の繁栄に関係するのでは,という興味深い仮説も話されました。
連日200人を超える頭痛患者を診察する,エネルギッシュな先生ならではの熱のこもった講演に,100名ほどの参加者全員が引き込まれ,あっというまに時間が経ったという印象でした。

会の終わりにあたり,共催メーカーであるファイザー株式会社よりお礼の言葉があり,定刻通り頭痛勉強会を終了いたしました。次回は今年秋頃に予定しております。

文責 北見公一
 
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