Lesson3 頭痛の最新医療情報

 このHP(ホームページ)を公開してから20年近くが経ちました。この間、頭痛医療の進歩は目覚ましく、頭痛の原因の研究や診断、新しい治療薬や予防薬など、慢性頭痛をお持ちの方々が快適な生活を送るためのいろいろな対処法が出てきました。ここではその様な慢性頭痛の最新医療情報をお伝えいたします。
 

頭痛専門外来と頭痛専門医
 当クリニックがHPで頭痛外来を謳ったのが2002年で、当時はまだ頭痛外来という言葉は珍しく、全国でも幾つかの病院で頭痛専門の外来を設けている程度でした。頭痛外来を設けた目的は、原因のわからない慢性頭痛患者さんを他方面から(種々の医学分野が重なりあう領域という意味で「学際的」に)時間をかけて診察する専門外来を創ることでした。
 頭痛を含め、痛みを何度も経験していると、末梢神経から発せられる痛みの感覚と、痛みを感じた時に脳内で起こる情動(腹が立つ、苦しい、恐ろしいなど)を何度も感じることにより痛み体験が記憶に残ってしまいます。
 そして精神的なストレスを受けると習慣のように、脳内に記憶された痛みの感覚と情動が再生しやすくなります。つまり頭痛を含めた慢性の痛みには、末梢(あるいは中枢)神経に起こった感覚としての痛みと、脳内での情動、感覚と情動の統合された記憶、そしてそれらを他人に表現する痛み行動などの要素がすべて含まれています。
 したがって頭痛外来では、感覚神経に異常がないか(脳外科、神経内科、ペインクリニック科)、心理的要素はどうか(心理学、心療内科、精神科)、記憶がどのように関与しているか(神経心理、神経病態生理、神経薬化学)、痛みの表現行動はどうか(行動心理学、心療内科、精神科)など多くの専門分野の知識が必要となります。
 人間一人ひとりの遺伝子や育った環境に培われた性格が違うように、痛みの感じ方、表現の仕方も一人ひとり異なります。なぜ慢性の頭痛を感じるようになったか、なぜそれを毎日薬で紛らわさなければならなくなったかを診断し、適切な治療をするのが頭痛外来です。一般的な診断基準に沿った診断治療だけでなく、一人ひとりに合ったオーダーメードの頭痛治療を行うのが頭痛外来であると言えます。
 幸い、2005年から日本頭痛学会が頭痛専門医の認定を始め、現在では日本中の多くの都市に頭痛専門医が多数いますので、慢性頭痛に悩まされている皆様には朗報だと思います。頭痛専門医の所在につきましては、下記の日本頭痛学会HPをご参照下さい。
 
日本頭痛学会
 学会HPによれば、一般社団法人日本頭痛学会は1973年に頭痛懇話会として発足し、1997年に日本頭痛学会と名称変更されました。2005年には専門医制度が発足し、同年には坂井文彦会長のもとで国際頭痛学会が京都で開催されています。2020年8月3日現在、会員数2713人、専門医の人数は942人に達し、全国の主要都市には専門医がいる状況となっております。
 学会HPには市民・患者さん向けのページもあり、頭痛医療についての最新情報が得られますので、是非一度訪れて見て下さい。
 

●日本頭痛学会ホームページ
 (https://www.jhsnet.net)

 
慢性頭痛のオンライン診療
 頭痛外来には多くの慢性頭痛患者さんが通院されていますが、忙しくて通院できない、或いは病院の診察時間と都合が合わないなどで、しばらく予防薬を切らして慢性化に戻ってしまう方もいます。
 厚生労働省は1997年から、僻地での遠隔診療は認められるとし、2015年から試験的に通信情報機器を用いた遠隔診療いわゆるオンライン診療の条件を整備してきました。2017年には禁煙外来を対面診療の例外としてオンライン診療を認め、2018年3月にはオンライン診療の適切な実施に関する指針を策定しています。
 そして今回、新型コロナ感染が広まったことにより、2020年4月よりオンライン診療を行える疾患として慢性頭痛が加えられました。確かに片頭痛などの一次性頭痛は、MRIなどで異常がなく診断が確定していれば、オンライン診療が適していると言えます。但し、片頭痛患者さんであっても頭痛は必ず片頭痛であるとは限りませんので、いつもと違うと感じたら診療機関に受診し、対面で診察してもらうことをお勧めいたします。慢性頭痛のオンライン診療を行っている施設は増えていますので、各施設HPや厚労省・地域厚生局などのHPをご参照ください。
 
頭痛診断の進歩
 頭痛診断の基準となるのは、国際頭痛学会が1988年に初版を発行した国際頭痛分類(ICHD)で、2003年には第2版、2013年には第3版のベータ版が登場し、2018年には正式な第3版が発行されて現在使用されています。頭痛専門医はこのICHD基準で頭痛の診断をしています。日本でも慢性頭痛の診療ガイドラインが2013年に出版され、多くの科学的エビデンスに沿ったガイドラインが示されています。
 画像診断も格段に進歩し、最近では総合病院や脳神経外科の専門病院などには高磁場・高解像度のMRI装置が設置されて臨床に使用されています。主に脳腫瘍やクモ膜下出血といった各種二次性頭痛の原因診断に威力を発揮しますが、特に可逆性脳血管攣縮症候群(痛みの総合的研究に準備中)や種々の神経変性疾患など、最近明らかになってきた疾患の診断には欠かせないものです。慢性頭痛であるとしても、一度は頭頚部の血管を含むMRI検査を受けておくのが良いでしょう。
 画像には異常は現れませんが、三叉神経痛や後頭神経痛といった頭部神経痛の診断にもMRI画像検査が必要です。神経痛とは神経の走行に沿って短時間に繰り返し強い痛みが起こる疾患で、基本的に一過性のものですが、脳動脈解離や頭蓋底部の先天奇形などでも神経痛様の痛みが出ることがあります。三叉神経痛は神経に血管が当たって起きる為,血管と神経を組み合わせたMRI画像検査が診断には必須になります。
 
頭痛治療の進歩

片頭痛

●片頭痛に対する治療法・予防法の進歩

 片頭痛はこの20年ほどで最も研究が進んだ領域です。1999年に初めてのトリプタン系製剤であるイミグラン(一般名スマトリプタン)が登場し、発作頓挫薬として高い有効性を示しています。当初は値段も高く、月に処方可能な錠数も抑えられていましたが、現在では5種類あるトリプタン系製剤すべてに後発品が出ており、以前に比べれば値段はかなり下がり使いやすくなりました。
 また頻度が多い場合の予防薬も多く出ており、アミトリプチリン、プロプラノロール、バルプロ酸、トピラマート、ロメリジン、ベラパミルなどが有用です。最近では病態解明がすすみ、CGRPというペプチドが片頭痛を悪化させていることが分かりましたので、CGRPの働きを抑える予防薬が日本でも近々発売されると思われます。
 

群発頭痛

●群発頭痛に対する治療法の進歩

 群発頭痛に対する治療法にも多くの進歩が見られました。在宅酸素吸入療法が可能になり、10年ほど前からはトリプタン自己注射キットが使えるようになりました。
 迷走神経刺激療法や後頭神経刺激療法も片頭痛、群発頭痛いずれにもある程度効果が認められており、近いうちに使えるようになる可能性もあります。

 

緊張型頭痛

●緊張型頭痛に対する治療法

 緊張型頭痛の治療法に関しては残念ながら余り多くの進歩が見られませんでした。これは緊張型頭痛の原因がまだはっきり捉えられていないためです。
 国際頭痛学会のICHD分類では、緊張型頭痛を反復性と慢性に分けていますが、反復性の場合には通常の鎮痛剤(アセトアミノフェンやアスピリン、非ステロイド系消炎鎮痛剤など)が有効な様です。ただ慢性の場合は多くの要因が関係しており、頭痛外来の項で述べたように、各種の学際的治療が必要になります。

 

 

 

 
 
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