学会イベント 第24回北海道頭痛勉強会後記 更新 : 2014年7月29日

 季節外れの台風が近づく中,710日木曜日に本年度の北海道頭痛勉強会が札幌市内のホテルで開催されました。平日にも係らず70名に及ぶ医師の皆様のご参加を頂き,まず共催のファイザー株式会社による製品説明で,片頭痛医療とレルパックス錠の話題が提供されました。続いて一般演題が2題報告され,その後にご多忙にも係らずご来札頂いた寺山先生から特別講演のご発表がありました。

 

一般演題1:北海道医療センター阿部宗一郎先生

「片側内頚動脈の血管攣縮をMRAで確認しえた孤発性片麻痺性片頭痛と思われる1症例」

 症例は10代半ばの男性で,左側視野のぼやけと右前頭部のズキズキする頭痛で発症。疲労感,頭痛を訴え,嘔吐を繰り返して近医を受診。そこで左不全片麻痺を指摘されて救急外来を紹介されました。
 体温上昇
37.6℃,左片麻痺3/5。祖母が頭痛持ちだったようです。血液検査ではWBC上昇程度で,その他は異常なし。3時間後の頭部MRI/DWIで異常なし。MRAで右IC全体が狭小化,MCにも狭窄。症状は翌日には落ち着きました。17時間後もDWIで所見なし。MRAで右ICの血管径が拡大,2日後のSPECTで右大脳半球のhyperperfusionが認められました。MRAの血管狭小化の形態がdiffuseでありRCVSではないと考えたようです。またMRIで後頭葉白質病変がなかったことより可逆性後頭葉白質脳症PRESも否定的と考えられました。

 最終的にICHD分類1.2.3弧発性片麻痺性片頭痛と診断されました。罹病率は0.01%で,片麻痺は通常72時間以内に回復するそうです。年34回繰り返すことが多く,片麻痺性片頭痛は家族性が多いのですが,弧発する場合もあります。症状の特徴は頭痛,片麻痺とともに発熱,けいれんなどを来すことで,治療はアセトアミノフェン,NSAIDsが用いられるそうです。

 

一般演題2.中村記念病院脳神経外科及川光照先生

SWIにより治療効果を判定した頭痛発症の脳静脈洞血栓症」

 MRISWI(磁化率強調画像)はデオキシヘモグロビンに対する検出能が高く、脳深部髄質静脈環流を鋭敏に映し出す検査法です。及川先生はこのSWIが治療効果判定や治療時期の決定などに役立った脳静脈洞血栓症の症例を報告されました。
 症例は
30才代の男性で頭痛発症。発症時は通常のMRIで異常なし。その後頭痛が続き5日後嘔吐も出現したため,近医で頭部CTを撮り,静脈洞交会の高吸収域所見から上矢状静脈洞血栓症を疑われ,中村記念病院へ紹介されたそうです。
 来院時
JCS1,症状はVerbal 6 responseで評価されました。MRVMR静脈撮影)で上矢状静脈洞(SSS)や直静脈洞などが描出されず脳静脈洞血栓症と診断されました。SWIで深部白質内髄質静脈が異常に拡大していました。血管造影で診断を確定後,ヘパリン,ワーファリンで治療し,症状は早期に改善したそうです。2週間後にSSSはまだ完全にはMRVで描出されていませんでしたが,SWIで髄質静脈の過剰描出が著明に改善したため,静脈内投与を中止し,内服治療のみとしました。
 このように治療法の選択や患者・家族へのインフォームドコンセントに
SWIが役立ったそうです。この症例はICHD分類の6.6脳静脈洞血栓症の症例ですが,現在の脳静脈洞血栓症治療ガイドラインではMRVによる検査をファーストチョイスで勧めています。しかしMRVよりSWIの方が側副血行としての深部髄質静脈が明瞭に描出され,脳血流のうっ滞を判定でき、治療効果判定や治療終了時期の決定などで有用と思われるとのことでした。

 

特別講演:岩手医科大学神経内科教授 寺山靖夫先生

「片頭痛を科学する‐頭痛診療はどこに向かうべきか‐」

 非常に興味をそそられる演題名もさることながら,寺山先生のお話は,はじめから型破りでした。当勉強会の顧問で講演の座長を務められた札幌医大神経内科下濱教授らと,以前の学会懇親会で楽しく歌っているスライドから入られ,頭痛を学ぶものはまず研究者同士の和を築くのがもっとも大切だと述べられました。

 その後頭痛の分類についての話に入られ,これまでの頭痛分類の歴史的経緯を述べられました。片頭痛研究は脳血流の研究でもあり,先生は米国テキサス州ヒューストンのMeyer教授のもとで,片頭痛患者は発作がない時でも血管の反応性に異常があるという研究を以前発表されました。その経緯やMeyer先生夫妻との親交を,懐かしい写真とともに話されました。

 先生はまた,頭痛研究は視野を広げないとだめという話をされました。片頭痛の患者は色々な科にかかります。すると内科でかぜ,整形で肩こり,婦人科で更年期や月経困難症,眼科で緑内障などと診断され,脳外科では異常なしと言われるのが落ちです。共存症,ストレス,遺伝子などの関係も含めて広く捉える視野が必要です。頭痛患者さんがなぜつらいかというと,自分の抱えている痛みの辛さが他人に伝わらないからです。

 痛みを理解するためにはどうすればよいか,それを研究するのがCephalalgiaすなわち頭痛学です。眼に見えないものを科学すること,困難への挑戦が必要です。つまり眼に見えるものにする,表現する。このためには頭痛が確かにあるという存在の証明,具現化の試み,標準化の試み,病態解明の試み,治療の試み,定量的評価の試みの観点から検討する必要があります。

 ①存在の証明としては,カッパドキアのAretaeus AD1年に頭が熱くなると表現したのが史実上の初めての頭痛の表現です。1600年にWillisは詳細な頭痛発作様式の記載をしましたが,これが近代頭痛学の初めとされます。

 ②具現化 (Incarnation) の試みについては,前兆をどう捉えるか,ICHD分類がなぜ必要かという点を考慮する必要があります。これは世界中の研究者間で頭痛の病態を共有するためです。先生は昨年発表されたICHD3βの改訂ポイントについて話され,脳底型片頭痛が脳幹性前兆を伴う片頭痛となり,慢性片頭痛が組み入れられ,NDPHTACsの分類も変更されたことを採り上げられました。さらに二次性頭痛の概要に変更が加えられ,原因疾患が治ったら頭痛が治まるという診断基準がなくなったことも挙げられていました。

 ③標準化(Standardization) の試みとしては,一次性頭痛で緊張型頭痛(TTH)や片頭痛,群発頭痛などの特徴を入れた診断基準を作成したということがこれに当るそうです。

 ④病態 (Pathophysiology) 解明の試みとしては,例えばTTHでは筋硬度との関係,片頭痛では精神的ストレスが関連するので脳幹のジェネレーターが推測されています。CGRP受容体病態仮説は正しいようです。これまで血管説,神経説,三叉神経血管説と片頭痛の発現を説明する説がでましたが,最近では脳幹血管調節説が注目を浴びています。パーキンソン病や認知症との関係からそのような説の妥当性が指摘されているそうです。LeaoCSDは実際の電気生理学的事実を報告したに過ぎません。前兆がない片頭痛の場合にも同じことが起こっている可能性があるそうです。すなわち脳幹からの刺激が後頭葉に伝わる可能性があるのです。

 次にアロディニアについて話されました。アロディニアは頭部アロディニア(末梢性),頭部以外のアロディニア(中枢性)という2種類に区別されます。頭痛の分野では2004年にBursteinが言い出したのが端緒です。

 ⑤治療の試みとしては,市販薬として様々なものがありますが広告通りには効きません。ご存知の通りTriptanが有効です。片頭痛における中枢性感作についても話され,MOHはもともと片頭痛が多いといわれました。MOHの日本語訳は薬物乱用というとabuseになるので「薬剤過剰使用による頭痛」というように,ガイドライン2013では日本語訳を変更しています。

 ⑥定量化(Quantification)の試みについては,頭痛の辛さを数字に置き換えることの難しさについて話されました。頭痛の重症度を表すのにHDSMIDASなど色々な物差しが使われていますが,これらはすべて定量性のない名義尺度,順序尺度であり客観性がないそうです。科学的で定量的な評価には間隔尺度,比例尺度を用いるのが重要で,これらを用いることで頭痛患者さんにとって「仕事ができない」ことと「レクレーションに参加できない」ことのどちらが重要(重症)なのかを判断することが可能になるのです。すなわち,評価項目に定量的な重み付けをすることが重要なのです。現在6項目からなる,片頭痛の重症度を客観的かつ定量的に測る尺度を開発中で,薬効評価などに応用するそうです。

 おまけ(Appendix)として,慢性片頭痛,難治性頭痛,頭痛とNeurophysiology,めまい,不安度,心身症,頭痛とCVD,肥満,青斑核についての研究などについて最近の教室での研究を少し話されました。あっというまの1時間で,本当に色々な面からどのように頭痛研究を進めるべきかということのヒントをたくさん頂けた講演内容でした。

 

 会場からも活発な質問が飛び,一般演題の内容も含め非常に密度の濃い充実した学会だったと,後から寺山先生にもお褒めを頂き,ご参加頂いた諸先生方にも有意義な会だったと思います。次回もまた,今回に負けず良い会にしたいと思います。

文責:北見公一

 

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