学会イベント 第23回北海道頭痛勉強会後記 更新 : 2013年8月9日

 平成25719日金曜日に京王プラザホテルにて第23回北海道頭痛勉強会が開催されました。1800の開始を10分ほど遅れ,今回の共催メーカーであるアストラゼネカ社の製品紹介が10分程あり,その後会が開催されました。

 一般演題の座長は札幌医大神経内科講師の久原 真先生にお願いし,いずれも興味深い2演題が発表されました。

 演題1は中村記念病院神経内科の仁平敦子先生のご発表で,群発頭痛女性例の増加と発作性片側頭痛との鑑別という題名です。群発頭痛は男性に多い疾患ですが,最近は女性患者も増えており,男性例と比較した特徴を述べられました。
 まず20才代女性例を示され,初めは年13回,2週間程の発作で発作は典型的ですが吐き気を伴う拍動痛で片頭痛として治療を受けていたとのことです。母と兄も同様の発作があったそうです。群発頭痛の発症年齢は男性が40.5才,女性が29.2才との報告があり,今回の仁平先生の調査でも女性20例の群発頭痛の発症は1052才,平均22.6才と男性に比べ若年発症が特徴でした。寺本は442例の群発頭痛症例で,やはり女性では20才以下の発症が多いことを報告しています。1980年代には男女比が4.3:1とされていましたが,その後10年ごとに男女の差が少なくなり,最近では21程度との報告もあるそうです。
 女性例が増えて来た理由としては,ライフスタイルが男性と同様になってきたことが考えられます。その他女性例の特徴は,嘔気・嘔吐を伴ったり拍動痛を訴えたりすることが多く,片頭痛と間違われやすいということがあるそうです。また女性例では眼瞼下垂や縮瞳が少ないとされています。
 次に先生は発作性片側頭痛の30才後半の女性例を示され,次に20才前半の持続性片側頭痛の症例を提示されました。これらはいずれも発作性の眼周囲痛と自律神経症状を伴い,インドメタシンが有効だったとのことです。群発頭痛と片側頭痛の鑑別点もまとめられ,発作性および持続性片側頭痛は女性に多く,インドメタシンが著効すること,発作性片側頭痛は群発頭痛に比べ発作持続時間が短く,持続性片側頭痛は痛みが消えることなく3か月以上持続するということが特徴であると述べられました。

 演題2は札幌山の上病院神経内科の古山裕康先生が「iPad用頭痛問診票アプリケーションの構築」と題して,iPadアプリとして頭痛問診票を作成される方法論を発表されました。 頭痛問診票は慢性頭痛ガイドラインでもグレードBで推奨され,4項目のスクリーナーや6項目のHIT68項目のチェックシートなどが使われています。これらは項目を少なく簡便に行えるようデザインされたものですが,慢性頭痛の問診を補う目的で,現在では網羅的問診票も作られているそうです。しかし種々の問診を網羅的に集めますと膨大な枚数の質問用紙が必要で実用的ではありません。
 そこで古山先生はiPadを用いて網羅的質問票を構築することを検討されました。網羅的の英語表現はexaustivecomprehensiveとなりますが,前者はへとへとに疲れさせるという意味もあります。この質問票の特徴は,質問漏れ防止,自覚症状,随伴症状その他漏れやすい質問を確実に問診することにあります。欠点は質問量が多く疲れるということです。
 実際の患者(片頭痛59例,緊張型頭痛123例)でパイロットスタディとしての紙ベースの網羅的問診票で検討されました。これはICHD-II準拠で,患者陳述決定項目(247項目)αの質問項目をカテゴライズしたもので,計32ページ,大問17,質問/選択肢434からなっています。iPadのものは,これから臨床に用いていく予定であり,現在ICHD-IIIβに対応させる作業を行っている所とのことです。使用後調査では質問数と満足度は無関係で,質問数と充足感は関係があったそうです。
 この網羅的質問票の方法論は1.網羅性,2.途中中断,再開が自由,3.データ自動集積,4PC取り込み可能ということです。発表では実際の試作画面をiPadで示され,アプリ名には病院ロゴも入っています。Patient, HIT6, MIDAS, FiQ, CoQ, Dr.Qのボタンが用意され,それぞれの回答を自動集積しPCで解析可能になっているとのことです。われわれ頭痛医療に携わるものにとって今後お勧めのiPadアプリとなりそうです。

 今回の特別講演は富永病院副院長で頭痛センター長の竹島多賀夫先生に「片頭痛医療の新たな展開とHeadache Master School in Asia 2013」と題して頭痛医療の最先端の話題をお話し頂きました。Headache Master Schoolは今後の頭痛医療を担う若手医師の育成を目的としアドバンストコースとして日本から約100名,その他アジア周囲の国からの参加も含め総勢約180名が3日間,研修所に缶詰になり,世界の頭痛の指導者たちの診察法や頭痛に対する考え方,治療内容などを集中的に学んだということです。
 次にICHD-Ⅲβの変更点と慢性頭痛ガイドライン2013の変更点につき話されました。
  ICHD-Ⅲでは大項目は14で変らず,1の一次性頭痛では1.3Cluster headache andの部分が削除され,TACsとして群発頭痛も含む形の名称に変りました。また片頭痛では1.3に慢性片頭痛chronic migraineが掲載され,1.2.2には脳底型片頭痛(basilar migraine) とされていたものがmigraine with brainstem auraに変更されました。また1.4 complication of migraineの中に1.6.3 benign paroxysmal torticollisが含まれましたが,これは小児科などからの要望が強かったためとのことでした。A1.6.6 vestibular migraineはかなり採択の要望が強く出されましたが今回はAppendixに掲載されることになったとのことでした。
 TACsでは第2版でその他の一次性頭痛に分類されていた持続性片側頭痛(hemicrania continua)3.4としてTACsの項目に入れられました。今までやや不自然とも思われた分類がなぜそうだったのか等の裏話を含め,竹島先生ならではの国際頭痛学会の内部事情も含めた話しを聞かせていただきました。4のその他の一次性頭痛のなかで先生は4.8 nummular headacheを自験例も含めて採り上げられ説明されました。この頭痛は2002年に雑誌Neurologyに発表されたのが最初で,今回4の項目に入ったものです。
 また二次性頭痛の捉え方が大きく変わり,全般的な捉え方general diagnostic criteriaで,今までは二次性頭痛とするためには原因疾患の治療を行い頭痛が治癒することを確認するとなっていましたが,これでは現在進行形の頭痛の原因となる器質疾患の治療が終了しない限り診断がつかない訳で,今回はその点を改善し,色々なエビデンスから頭痛を起こす疾患と分かっている場合は,頭痛の消失を待たず,同疾患による二次性頭痛として良いとする項目も含むことになったそうです。発症や頭痛の経過のプロフィールが大切にされているとのことでした。
 次に慢性頭痛ガイドライン2013の話しに移られ,まずⅡ-2-2トリプタンのタイミングのCQ(clinical question)について,アロディニアの有無が大切な見分け方と話されました。Ⅱ-2-7ではNSAIDsなどの使い方について解説してあります。月経関連片頭痛ではE2がそのもので炎症が起こることと,低下自体がトリガーとなるなど機序が研究されているそうです。
 また片頭痛でホルモン治療は賛否両論ですが,避妊目的のピルは勧められないとされています。前兆のある片頭痛ではピル自体が禁忌です。妊娠中の片頭痛発作軽減率は,第一期が57.4%,第二期83.0%,第三期87.2%とかなり発作自体は軽減されるのですが,起こす人はいるのでトリプタンによる治療も必要となります。また出産後は1週目で34%1ヶ月で50%と片頭痛の再開は早い時期に起きます。
 CQ-1-9は片頭痛は脳梗塞の危険因子か?というものですが,これがかなり議論を呼んだ項目です。種々の報告がありましたが,2009年メタアナリシスで片頭痛の45才未満は片頭痛のない人を1とすると相対危険度が3.65とやや多いという結果が出ました。しかし前兆のない片頭痛は無関係という結果も出ています。喫煙とピルが危険因子です。
 トリプタン服用は脳卒中を増加するか?というCQについては,トリプタン服用はコントロールと脳卒中発生率は有意差なし,という結果が出ており関係ないことが分かっています。また薬物乱用頭痛で薬物中止は必要か不要か,という議論がありましたが,トピラマート試験では予防薬を使うことで薬物中止は不要であったそうです。しかし一般的に薬物乱用頭痛のIntegrated headache careでは,高頻度の片頭痛の治療として服用中止し,予防薬を加えて,トリプタンの早期服薬で良いとのことでした。頻度がどのような時に予防が必要か,ということに関しては先生は3回以下は不要,38回(515日)は相対的適応,8回以上(15日以上)は絶対的適応と考えているとのことです。
 最後に保険診療の話しをされ,適用拡大が種々の薬剤で認められて来ているという話しをされました。ジクロフェナクなど多くの薬剤が,公知申請などで片頭痛に認められているとのことです。平成23928日時点で認められている多くの薬剤をご紹介頂きました。
 片頭痛に関する多くの新しい知識を頂き,非常に有意義なご講演だったと思います。

 次回は平成26年の7月頃にファイザー株式会社の共催で開催予定です。

 

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