学会イベント 第22回北海道頭痛勉強会後記 更新 : 2012年7月24日

 平成2476日(金)にアートホテルズ札幌にて,第22回北海道頭痛勉強会が開かれました。忙しい平日の夜にも係わらず,40人程度の熱心なドクターのご参加を頂き,1800からまず今回の共催メーカーであるグラクソスミスクライン㈱からの,片頭痛治療薬アマージ錠に関する製品説明で幕が開きました。1820頃より中村記念病院神経内科部長佐光一也先生の座長で,一般演題が2題発表されました。

 一般演題1は「片側性の激しい頭痛で発症した特発性頭蓋内内頸動脈解離の1例」ということで,札幌医科大学神経内科の越智龍太郎先生が発表されました。症例は20代女性で,飲酒後右側頭部に激しい頭痛が起こり,左手のchorea様運動が出現したそうです。3病日まで頭が痛くて起きられず,第6病日に他院でMRIを撮り,脱随疾患を疑われました。危険因子としては飲酒,ピル内服があったそうです。
 高校の時何らかの理由でMRIを撮りましたが,その時は異常なかったそうです。初診時MRIで右基底核部と深部白質にFLAIR高信号を認めました。34病日FLAIRで高信号内に低信号部分出現し,脳梗塞と診断されました。Marfan症候群なし,膠原病もみられませんでした。左上肢不随意運動は72病日まで続いたそうです。ラボデータでは異常なし。66病日にMRAで右内頸動脈遠位端終末部にpearl signを確認し解離と診断したとのことです。
その後の血管造影で内頸動脈の完全閉塞を認め,右大脳への対側からの側副血行が認められましたが,
Diamox 負荷SPECTで予備能低下を認めたため,EC-ICバイパス術を行い現在良好な経過とのことです。

 一般演題2は「慢性片頭痛治療における一工夫」と題して北見が発表しました。慢性片頭痛は,片頭痛の既往がある人で,月に15回以上の頭痛が3ヶ月以上続き,そのうち8回以上が前兆のない片頭痛の診断基準を満たし,薬物乱用がないこととされています。しかし片頭痛が慢性化する場合,大半が薬物乱用を伴っており,Silbersteinの薬物乱用を伴う慢性連日性頭痛に当ります。
通常はバルプロ酸やアミトリプチリンなどで予防しますが,中には各種予防薬に反応が悪く,トリプタンを連用する場合も多くみられます。演者は予防薬があまり効果のない
2040歳代の3人の慢性片頭痛の女性に対して,ナラトリプタン0.51錠を朝夕2回連日投与し,即効性トリプタンの頓挫療法を併用することで,ある程度の片頭痛の回数減少と薬物乱用離脱を達成することができました。
今後保険適用などの問題を解決できれば,薬物乱用を伴う慢性片頭痛に対する一つの治療法の選択肢となり得るのではないかと思われました。

 1900頃より北海道大学神経内科教授佐々木秀直先生の座長のもと,特別講演が始まりました。特別講演は「更年期女性の片頭痛をどう診るか?」という演題名で,甲南病院神経内科部長の北村重和先生が講演されました。
 北村先生はまず,女性ホルモンと片頭痛について話されました。片頭痛は女性ホルモンとの関係が深く,小児期の発経から成熟期の月経関連片頭痛,更年期の変化などで片頭痛の起き方が変ります。月経関連片頭痛は60%程度でみられ,妊娠中はMOA5590%前後改善し,経口避妊薬投与で30%程度が改善するそうです。
 次に先生は女性ホルモンと神経系という題目で話されました。三叉神経節にエストロゲン受容体が多く,エストラディオール(E2)低下や,エストロゲン離脱などで悪化します。エストロゲンの急速な低下により脳内の神経伝達物質や性ホルモンの動態が変化して発症トリガーに影響する可能性が考えられていますが、依然として不明な点が多いとのことです。
 月経関連片頭痛は2004年のNeurologyMacGregorがまとめて報告したのが最初とのことです。排卵時片頭痛については北村先生らが自験例をまとめて昨年の国際頭痛学会(IHC 2011)で報告されています。それによればMRM75%で排卵時片頭痛をもち,MRMとのオーバーラップが52例中37例みられたそうです。
 トリプタン製剤で難治の場合は,トリプタン2倍量を投与するか,トリプタンとナプロキセン300mgを併用すると有効性も満足度も上昇するとのことです。
 更年期という言葉は1906年に小栗風葉の小説「青春」の中で初めて登場し,医学用語としては1914年から使用され出したそうです。診断基準はないようです。ホルモン補充療法(HRT)の適応などは,簡略更年期指数(SMI)や更年期スコアを参考に決められるようです。卵巣摘出後やMRMの場合,更年期に片頭痛が悪化する傾向がありますが,これは若い人よりエストロゲンの変化率が多いためとされます。HRTを行うとその後の片頭痛が悪くなることが多く,1040%で閉経後悪化するとのことです。片頭痛治療の観点から行くと,HRT2123%が改善,悪化も20%程度あり,それ以外は不変とのことです。HRTガイドラインでは50歳代からHRTを行うということになっていますが,施行後片頭痛が増加し持続的になることもあるようです。
 先生はここで症例を提示されました。52歳の女性で,最近嘔気嘔吐が持続するということで消化器科を受診され,消化器には異常なく,頭痛もあるため頭痛外来に紹介されました。よく聞くとMRMがあった様ですが,本人はあまり自覚がなかったようです。HRT後に片頭痛の随伴症状としての嘔気嘔吐が持続していたようです。更年期にはエストロゲンの変動に加えて、心理社会的な要因も合わさって片頭痛が増悪することが少なくないので,それぞれの時期に適切な治療を考慮する必要があると締めくくられました。更年期の片頭痛については,知識があやふやだったため,先生のご講演は非常にためになりました。


 最後に共催メーカーGSK社支店長から閉会の挨拶があり,今回の頭痛勉強会も無事終了いたしました。次回は予定が決まり次第,当HPなどでお知らせいたします。 

 

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