学会イベント 第21回北海道頭痛勉強会後記 更新 : 2011年11月11日

平成231026()に札幌グランドホテルにおいて第21回北海道頭痛勉強会が開催されました。連絡が行き届かなかったようでいつもより少人数での会となりました。

会に先立ち,今回の共催メーカーであるエーザイ株式会社から片頭痛治療薬マクサルトの製品説明がありました。統計では片頭痛の自覚のない人が88.4%もいるとのことで,今後も片頭痛の啓発活動の必要性を実感させられました。 

一般演題1は「後頚部痛で発症した急性頚部ジストニア3症例の検討」で,中村記念病院神経内科の阿部剛典先生が講演されました。最近3例の急性頚部ジストニアを立て続けに経験され,アーテンが著効したとのことです。1例目は60才後半の女性,後頚部痛,持続痛で発症しました。首のツッパリ感を訴え,頚部のジストニア様運動が明らかでした。他院数ヶ所で治療を受けNSAIDsなども十分使われていたそうですが改善しなかったとのことです。アーテン服用後16日で症状は改善し,CTで頚筋のバルク低下を認めたとのことです。2例目は60才前半の男性で,後頚部痛と眼の奥の違和感,嚥下困難で発症しました。頚部にジストニア様の筋硬結を認めテルネリンを投与しましたが効果なしで,アーテン6mg1ヶ月内服し症状が改善したそうです。3例目は20才後半の男性で,後頚部痛,喉の違和感で発症しました。この症例もアーテンが有効でした。いずれも急性ジストニアで原因不明とのことです。破傷風がはやっていたので抗体を測ったが陰性だったとのことです。急性のジストニアは薬剤性が有名で急性と遅発性があります。筋電図や頚部CTで改善が確認され,嚥下障害が特徴的とのことでした。

一般演題2は「狭心症を共存する群発頭痛様頭痛の1症例」という題で,北海道医療センター神経内科の藤木直人先生が発表されました。発表に先立ち,先生は頭痛勉強会の原点に戻って悩んでいる症例を持ってきたのでディスカッションしてほしいと前置きされました。症例は50才代男性,30代から片頭痛様発作がたまにあったようです。2か月前狭心症様発作があり,循環器内科で精査予定とのことです。Ca拮抗薬,抗不整脈薬,二トロールなどを服用していました。症状は右眼奥の痛みで,20-30分続き,発作時流涙・鼻閉などの自律神経症状はありませんでしたが,反復性群発頭痛の診断基準は満たしていました。脳MRIは他院で異常ないと言われたので検査していないとのことでした。酸素吸入が著効し,群発頭痛と考えプレドニゾロン60mg/日で開始。発作は内服後すぐになくなり,17日でプレドニゾロンを中止しました。しかし3ヶ月後再発し受診。今度は両側性で持続性になっていました。その間に狭心症であることが確定し,ワソラン,シグマート,アイトロール,シベノールなどを内服していました。痛みの程度は薬の増減に関係するようでした。可能性として国際頭痛分類第2版の8.1.1一酸化窒素(NO)供与体誘発頭痛の可能性を考えましたが治療法として狭心症薬をやめるわけにもいかず,プレドニンを出したところ著効したとのことです。フロアからのディスカッションでは,何らかの海綿静脈洞周囲の炎症や,側頭動脈炎などが考えられるのではという意見が出ていました。

特別講演では「薬物乱用頭痛の実態と治療」という題名で,神奈川歯科大附属横浜研修センター・横浜クリニック内科学講座教授の五十嵐久佳先生が講演されました。

薬物乱用頭痛(MOH)の診断基準はICHDⅢでは現在ICHDⅡのアペンディックスに出ているものが採用されるようです。頭痛外来を訪れる患者さんの2年間の調査では男性8.3%,女性15.3%が薬物乱用状態にあったとのことです。薬を飲み始めてから2-5年で乱用となる人が多く,もともとは片頭痛または片頭痛+緊張型頭痛の人がなりやすく,薬剤ではOTCを飲んでいる人が75.6%でした。治療1ヵ月で64%が改善,予防薬はアミトリプチリンとロメリジンが多いとのことです。1年後にも通院を続けているひとは168例中90例で,症状が改善しなかった8例中7例はOTCを乱用していた患者さんでした。MOHの有病率は一般住民の1-2%程度で,50才代女性が多いとの報告があります。なぜ薬物乱用状態に陥るかのメカニズムについては,素因や,頭痛に対する恐怖,中枢性感作などが関与し,延髄RVMにあるon-cell活性が高まっていることが知られています。薬剤による差があり,トリプタンは早くMOHになりますが,回復も早いと報告されています。医療の問題点としては,片頭痛発作が頻回に起こる患者さんに対する予防薬投与が少ないと強調されていました。片頭痛の慢性化と緊張型頭痛の慢性化はいずれも不安が関係しているようです。欧米ではMOHと肥満,BMIとの関係もが採り上げられていますが,BMIは男女や年代によっても平均値が異なることから,MOHBMIとの関連性については対照をきちんととって評価することが必要と話されていました。MOHを予防するためには,患者さんへの教育や不安感を和らげる,などが大切とのことです。トリプタンによる頭痛の再燃がある患者さんにはトリプタンとNSAIDsの併用も有効で,早く効くトリプタンと持続性NSAIDsの組み合わせや,その逆が考えられます。NSAIDsの中でもナイキサンはT1/2が長いそうです。典型例として50才代女性がMOHを起こした症例を出され,頻回の片頭痛発作により脳の過敏性が増し,片頭痛generatorが作動し続けるとMOHになる可能性があるため,予防薬が必要とのことです。更に患者支援として,家族へ理解を求める,頭痛ダイアリーを付ける,病診,診診連携が大切であること,などを述べられました。

来年からはまた装いも新たに北海道頭痛勉強会を続けていく予定です。今回やや連絡が不十分だった面を反省し,次回からはまた多数参加いただけるよう世話人一同努力して会の運営に当たりたいと思います。               文責 北見

 

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