学会イベント 第14回北海道頭痛勉強会後記 更新 : 2008年6月17日
 平成20年6月4日18:00より,北海道頭痛勉強会とグラクソ・スミスクライン株式会社の共催のもと,札幌グランドホテルにて第14回北海道頭痛勉強会が開催されました。参加人数は医師91名,コメディカルの方27名の合計118名でした。
まず18:00より共催メーカーのグラクソ・スミスクライン株式会社より,4月に発売された片頭痛治療薬「アマージ」(ナラトリプタン)の製品説明がありました。特徴は半減期が5-6時間と長く,月経関連片頭痛のように長く続く片頭痛や,他のトリプタンを何回も飲まなければならない患者さんには一度使ってみる価値はあるようです。効果発現までの時間がやや遅いのが難点ですが,副作用も今までのトリプタンのなかでいちばん少なく,使いやすい製剤といえそうです。

演題1「口腔顔面片頭痛の一症例―新しい片頭痛病型か?」 
脳神経外科・心療内科 北見クリニック院長 北見公一
症例は50代初めの女性で,主訴は右上顎の歯が痛いということでした。10年前,右上奥歯が痛くなり歯科で治療を受けたそうです。しかし以後も定期的に歯痛が起こり,耳鼻科・口腔外科にかかりましたが原因不明で,3年前に脳神経外科で検査し異常なしといわれました。以前片頭痛の既往はありませんが母親は頭痛持ちだったそうです。前兆はありません。頻度は月3回程度で,大体右上顎の熱を持った拍動性の痛みが起こってくると,次第に側頭部から後頭頭頂部に広がるとのことです。痛みは拍動性で2,3日続き,光・音過敏があります。吐き気・流涙・鼻閉などの自律神経症状はなく生理との関係は不明でした。右V1出口がやや過敏で,右咬筋に筋筋膜性圧痛があり,口腔内はトリガーゾーンなく開口制限もありません。頭部CTでも異常所見はありません。うつ傾向・不安傾向とも強くありません。スマトリプタンが著効し,1時間ほどで治まりました。現在も月2,3回の発作が続いていますが,大体3回に1回は上顎の拍動痛で始まり,それ以外は目の奥の痛みであることが多いそうです。Obermannらは三叉神経第2枝・第3枝領域の痛みを主訴とする片頭痛の7症例を報告し,5例は三叉神経痛と誤診されていたそうです。46才~65才で女性が6例と大多数であり,副鼻腔頭痛や三叉神経痛と間違われやすいそうです。副鼻腔頭痛と診断されたケースの85%に片頭痛または片頭痛の疑いのケースが含まれ,1.6%は第2枝に限局した痛みで,トリプタンが有効であることが一つの診断根拠となります。耳鼻科での973症例の顔面痛の中で,24例(2.47%)が三叉神経第2枝に限局した片頭痛様の痛みであったそうです。片頭痛発作中43%に副鼻腔部の痛みや圧迫感が見られたとの報告もあります。原因としてはV1は内臓枝で,通常は硬膜からの刺激はV1に伝わりますが,体性感覚枝であるV2V3も脳幹の三叉神経核内で収斂するので関連痛になるという説や,V1の刺激伝達物質がV23の分布している歯髄組織でも発現しているという神経伝達物質説などがあります。神経血管性口腔顔面痛という名称もありますが,診断基準の類似や治療の効果から片頭痛の類型と考え,口腔顔面片頭痛とするほうが良いとされています。

演題2「古典的片頭痛に類似したReversible posterior leukoencephalopathy syndrome (RPLS)の一例」
札幌厚生病院神経内科主任医長 静川裕彦先生
静川先生は40才半ばの女性で典型的前兆を伴う片頭痛様発作を来したRPLSの症例を発表されました。過多月経で婦人科にかかり,gonadotropine releasing hormone analogueであるナファレリンを投与されたところ,11日後より閃輝暗点を伴う拍動性頭痛が起こり,トリプタンが有効だったとのことです。3日後頭部MRIのFLAIR画像で両側後頭部に高信号域を認め,ADC(Apparent diffuse coefficiency)画像でも異常が見られたため,ナファレリン投与を中止したところ,片頭痛様の発作も消失し,数ヶ月後にはMRIでの上記所見は消失したとのことでした。RPLSはシクロスポリン脳症,子癇,高血圧性脳症などで見られる所見であり,MRIではFLAIRで高信号,DWIで等信号を示すことより,血管原性浮腫を現すと考えられています。原因は基礎疾患や薬剤性など様々ですが,この症例ではナファレリンによる血圧の急速な一過性上昇や,ヘモグロビンの急速な改善などが関与しているものと推測されたとのことです。文献でも慢性貧血の急速な補正がRPLSを来した報告があるとのことでした。同時にくも膜下出血を思わせる所見が見られた理由は不明とのことでした。

特別講演「慢性頭痛の問題点」
獨協医科大学神経内科教授 平田幸一先生
平田先生はその幅広い頭痛医療の知識を駆使され,片頭痛や緊張型頭痛などの一次性頭痛に潜む診断治療の問題点を,わかりやすく解説されました。片頭痛は周囲の理解が得られないことが多いのですが,しばしば重篤で寝込むことが多く,社会生活にも支障をきたすため,例えば会社での配置転換が必要になることもあります。前兆のない片頭痛の診断・マネージメントの上では,教科書にあまりない湿度・暑さなどの環境要因や実は72時間を超えて続くという場合がよくあることなどが問題になります。すなわち月経関連片頭痛などでの長期持続には,脳が過敏になる感作が起こっていると考えられます。先生はこの感作を光過敏でみた研究を披露され,脳波光刺激の結果をLORETAトポグラフィという特殊な技術でみると,20Hz以上で同調する波が前頭葉や辺縁系に見られると示されました。また,臨床的な診断には,動作による悪化,吐き気,光過敏,臭過敏の項目からなるスクリーナーが有用で,その解説もされました。
治療薬である,トリプタンの選択は嗜好や発作の状態などにより決められますが,診断が適切でなかったり,服薬が適切でない,ノンレスポンダー,頭痛がこじれている,などのときは要注意とのことです。またアロディニアのメカニズムから早期服薬が推奨されました。こじれた頭痛については,はじめは二階建て頭痛であり,片頭痛に緊張型が混在してくる場合が多いようです。こじれた頭痛の代表に慢性連日性頭痛(CDH)がありますが,これはICHD分類には入っていません。1月に15日間以上,1回の発作が4時間以上続く場合で,鎮痛剤をすぐ飲むことで脳の感受性が変化してきます。成り立ちはほとんどが片頭痛が始まりです。単純だった片頭痛は社会環境や月経などで薬物乱用頭痛(MOH)となり,CDHを来すことが多いようです。これには片頭痛がうつやパニック障害と合併しやすいこととも関係します。月に10日以上を薬物乱用の基準とします。治療は原因薬剤の中止と予防薬の投与です。慢性片頭痛という薬に関係のないCDHもまれに見られますが,家系的に薬嫌いの人が多いようです。
先生は次に緊張型頭痛の話をされました。緊張型頭痛(TH)は精神的疲労のストッパーの役目も果たすというユニークな見解を示され,無理をし過ぎがちなテクノストレスなどストレスの多い現代社会の一つの精神的安全弁になっていると話されました。ICHD診断基準には頭蓋周囲の筋緊張という記載はあっても肩こりの記載はなく,肩こりとTHのつながりはいまだ解明されていません。THは末梢性要素(肩こり)と中枢性要素(感作と痛み過敏)が関係し,より末梢性の要素が強いと稀発・頻発性緊張型となり,中枢性要素が強いと慢性緊張型になりやすいとのことでした。ICHD‐Ⅱではいままでのごみ箱的病態だったTHがかなり明快に整理されていますが,治療に関してはなかなか困難です。その理由として先生は,慢性緊張型では片頭痛と同様に共存疾患の存在があることを挙げられました。共存症としてはうつや睡眠障害,パニック障害などが多く,うつは65%,アパシー,パニック障害はそれぞれ30%とのことでした。心理検査であるMMPIでみると片頭痛と緊張型のいわゆる混合型で特に異常が多いそうです。2年間のコホート研究ではうつと片頭痛は9.3%と関連が強く,うつのある群では,うつのない片頭痛の3倍から5倍の頻度とのことでした。完全主義的な病前性格が関係し,セロトニンとの関係や遺伝,神経伝達物質などが背景にあり,さらに脳の過敏性が関連するようです。
Limbically augumented pain syndromeという疾患概念が2000年に提唱されましたが,これによると,やっかいな頭痛は情動系と痛みの記憶が関係しているとのことでした。とくに身体化障害などの頭痛は治療が困難で精神科医などに治療をまかせた方がよいとのことでした。治療に関しては,遺伝や脳内過敏性,加齢,環境ストレス,気候,ホルモンバランス,共存症などに注意して行われますが,特に不規則な睡眠や食事の摂り方には注意が必要とのことです。週末頭痛には交感神経の関与やセロトニンとの関係から,交感神経抑制,ヒスタミンH1受容体への親和性などを考慮して,抗うつ薬,抗不安薬などを中心に行われます。緊張型治療のトピックスとしては,先生らが行ったTH治療に対するエチゾラムとメフェナム酸との併用療法は有意に有効性が高かったとのことでした。
片頭痛や群発頭痛の治療の最近の話題では,イミグラン自己注射ができるようになったことがありますが,詳しくは日本頭痛学会のホームページにガイドラインが出ています。月経関連片頭痛では正しいタイミング,制吐薬の併用,共存症に対する注意などが必要で,最近では半減期の長いナラトリプタン(アマージ)など治療の選択肢が増えているとして講演を終了されました。

会のまとめを北海道頭痛勉強会顧問の札幌医科大学神経内科教授 下濱俊先生にいただき,第14回北海道頭痛勉強会を無事終了いたしました。次回は平成20年10月後半から11月上旬に開催を予定しています。
文責 北見
 
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