学会イベント 第10回北海道頭痛勉強会後記 更新 : 2006年7月9日
去る6月28日(水)午後6時より,札幌パークホテルにて第10回目となる北海道頭痛勉強会が開かれました。朝方は天気も悪くやや心配しましたが,午後からはよく晴れて,梅雨のない北海道のありがたみを感じる一日となりました。
今回も100名ほどの医療関係者にお集まりいただき,午後6時5分頃より,今回の共催メーカーである,グラクソスミスクラインの学術担当者から,片頭痛の診断ツールであるHIT-6とそれによる片頭痛診断の実際,およびイミグラン点鼻液の片頭痛治療における有用性についてのプレゼンテーションがありました。
午後6時20分頃より,中村記念病院神経内科部長の田中千春先生の座長のもと,一般演題が2題発表になりました。

一題目は「当院職員に対する頭痛アンケート調査」という題名で,大雪病院神経内科の黒島研美先生が発表されました。黒島先生は今年度,日本頭痛学会の頭痛専門医に認定されました。発表内容は職員全体に対して,国際頭痛学会分類ICHD-Ⅱに則ったアンケート調査を行い,男性31名,女性106名,合計137名の頭痛調査を,詳細に分析されていました。その中で頭痛あり72%,男性52%,女性80%とやはり女性に多く,特に片頭痛が多かったようです。頭痛があり仕事に支障の出る方が62%と多く,片頭痛の患者さんの8割に肩こりが合併していたという興味深い結果も報告されていました。片頭痛の家族歴は61%に見られたとのことです。病院関係者でありながら職員の受診が少なく,多くの方はNSAIDsで対処していたようです。このアンケート調査がきっかけで院内の職員の受診が多くなることを期待すると結ばれていました。

二題目は中村記念病院神経内科で頭痛外来をされている仁平敦子先生による,「脳動静脈奇形における頭痛」という演題の発表でした。脳動静脈奇形(以下AVMと略します)に頭痛が伴うことは以前から脳神経外科や神経内科の間ではよく知られていましたが,どの程度あるものか,どのような頭痛が多いのかということに関しては,あまりきちんとした報告がなく,今回の仁平先生の報告は非常に貴重だと思われます。中村記念病院を受診した97例のAVMのうち,頭痛発症が20例でかなり多くなっています。(出血42例,痙攣9例など)頭痛の形態は片頭痛様の拍動性頭痛が多く,ICHD-Ⅱの前兆のある片頭痛の診断基準に当てはまるものが6例,前兆のない片頭痛が5例,それ以外の拍動性血管性頭痛が3例と,7割が片頭痛様の頭痛ということです。男女差はなく,AVMのある側が痛くなる割合がかなり高かったと報告されました。これについてはフロアからも後で,反対側に起きやすいのではないかとの質問が出ましたが,仁平先生によれば,他の研究報告でもAVMのある側に頭痛が起こりやすいとのことでした。またAVMの治療後は7-8割の頭痛が改善されるとのことで,このことからもAVM自体から血管性頭痛が起こっている可能性が高いことが示唆されました。報告症例数も多く,正に今後の片頭痛の診断にはAVMの存在を常に頭に置かなければならないと警告を発する報告でした。

一般演題が終了し,7時頃から本日の特別講演が始められました。頭痛勉強会顧問の北海道医療大学 田代邦雄教授の座長のもと,今回の講演のため,お忙しい中を札幌にいらして頂いた筑波学園病院小児科部長の藤田光江先生が壇上に登られました。藤田先生は頭痛医療関係者なら誰でも知っている小児頭痛の世界的大家で,今回も「小児・思春期の頭痛」という題名で講演されました。副題に「わかりやすい診断手順と治療について」とあるように,まさにわかりやすく,明日の診察にすぐに役立つ内容でした。まず藤田先生は小児にも慢性反復性頭痛が多いことを話されました。頭痛は自覚症状でもあるので問診が重要ですが,小児の場合は母親に片頭痛などがあることが多く,母親に問診していくことによって,医者も母親も,子供の頭痛の理解を深められると話されました。検査では血圧を測ることも大事であり,血圧測定によりレニン産生腫瘍が発見された症例を報告されていました。またMRIやCTなども重要で,橋腫瘍や脳出血,好酸球性肉芽腫症などの症例を提示されていました。小児科外来を受診する慢性頭痛では片頭痛が多く,母親からの遺伝が多いとされます。今回改定された国際頭痛分類(ICHD-Ⅱ)で,小児期片頭痛に小児周期性症候群が採り上げられたこと,また小児片頭痛は持続時間が短いため,成人のように4時間以上ではなく,1時間以上となっているのも特徴だそうです。ただ診断基準では小児周期性嘔吐症は,いわゆる自家中毒などよりは強く,かなり厳密な基準があります。またトリプタンの小児への使用は,まずICHD-Ⅱで片頭痛と確実に診断され,学業が中断されるような強い頭痛で,イブプロフェンやアセトアミノフェンが無効なものは,体重40kg以上,12歳以上であれば成人と同量のトリプタンを使っていいのではないかとされました。また体重が25-40kgであれば半分の量を使うとされ,前兆があるものはできるだけ早く使うと話されました。小児片頭痛の急性期治療薬は,イブプロフェン,アセトアミノフェン,イミグラン点鼻液,とのことです。
また同じ慢性頭痛でも緊張型頭痛もみられ,この場合は起立性調節障害を伴うことも多いのだそうです。小児の場合,低年齢であるほど脳波検査が必要であることを話されていました。藤田先生の小児頭痛の研究の発端となった「てんかん性頭痛」に関しては,かなり詳細に述べられました。これは旧分類には入っていなかったので,ないのはおかしいと藤田先生が直接制作者に手紙を書かれたエピソードなども紹介されていました。今回の診断基準では1.5.5片頭痛により誘発される痙攣,7.6てんかん発作による頭痛が採り上げられ,7.6.1てんかん性片側頭痛,7.6.2てんかん発作後頭痛,と分けられました。そして片頭痛とてんかん発射を伴う頭痛との比較をされましたが,多くの点で非常に類似していることがわかりました。ただし治療をして頭痛はなくなっても脳波異常が残ることもあり,脳波異常が頭痛発作に結びつくのかどうかはまだ明らかではないようです。治療には抗けいれん薬を使うのですが,フェノバルビタールやカルバマゼピンは勧められますが,バルプロ酸は,近い将来妊娠の可能性のある思春期の女性には使わないと話されました。またミトコンドリア脳筋症(MELAS)の頭痛や,錯乱性頭痛という珍しい頭痛についても話されました。

小児の頭痛の話をここまで詳細に聞いたことがないという声とともに,講演が終了するやいなや,フロアからの数多くの質問が寄せられましたが,藤田先生はその一つ一つに丁寧に答えておられました。
大幅に予定時間を超えて,8時30分頃に,当勉強会顧問の札幌医科大学名誉教授 松本博之先生が会のまとめをして下さり,第10回の頭痛勉強会も無事閉幕となりました。次回は本年秋にアストラゼネカ社の共催で行う予定です。またわれわれ幹事一同,嗜好を凝らして企画しようと考えていますので,どうぞご期待下さい。
北海道頭痛勉強会幹事 北見公一,田中千春,藤木直人,今井富裕,木村慎司
(文責:北見)
 
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