学会イベント 第9回北海道頭痛勉強会後記 更新 : 2005年11月21日
去る平成17年11月18日金曜日に,札幌パークホテルにおきまして,北海道頭痛勉強会を開催いたしました。その日はあいにく神経内科の大きな研究会やその他の研究会とぶつかっており,今回の共催メーカーであるエーザイの方々が懸命に案内してくれたにもかかわらず,約50名程の参加と,いつもよりは少な目でした。しかし内容は非常に素晴らしいもので,今回参加できた方々は有益な話が聞けて,とてもラッキーだったと思います。

年の暮れも近づき,あわただしい夕方のラッシュに影響されたためか,参加者の集まりが悪く,定刻より15分遅れで会が始まりました。まずエーザイの学術担当者より,日本での発売が一番新しいトリプタン製剤マクサルトの,最新のアンケート調査などの集計結果が発表され,他のトリプタンと比較しても,片頭痛治療にかなり有効であるという話をされていました。治療に当たる側としても,治療の選択枝が増える事はよいことと思います。

続いて,今回より頭痛勉強会の幹事となられた札幌医大神経内科の今井富裕先生の座長のもと,一般演題が2題発表されました。

1題目は恐らく日本では初めての症例報告と思われる「慢性発作性片側頭痛Chronic paroxysmal hemicraniaの1症例」を国立札幌南病院神経内科の藤木直人先生が発表されました。Chronic paroxysmal hemicraniaは新頭痛分類では3.2.2,つまり群発頭痛およびその他の三叉自律神経性頭痛に分類され,1974年にSjasstadとDaleにより初めて報告されました。発症率は非常に低く,群発頭痛の1~3%程度と見られているようです。群発と違い,女性が男性の3倍を占めるそうです。藤木先生の症例は62才の女性で,30年前から左側頭部から眼の周囲に15-20分続く頭痛が始まり,流涙,鼻漏,結膜充血を伴い,誘発誘因なく,次第に慢性化していったということです。インテバン50mg→75mg分3の投与で頭痛は消失したと報告されました。この様に診断基準をきちんと満たす症例は非常に珍しく,筆者も海外の論文でしか見た事がありません。貴重な報告だったと思います。

2題目は中村記念病院神経内科の村上宣人先生による「頭痛・耳痛で始まった不全型Ramsay-Hunt症候群の1例」という発表でした。1907年にJames Ramsay Huntにより報告されたRamsay-Hunt症候群は,耳痛・耳症状と顔面麻痺を主症状とする症候群で,帯状疱疹ウィルスの中間神経感染が原因だそうです。中間神経と顔面神経,蝸牛前庭神経は接して走行していますので,中間神経症状として耳痛,味覚障害などのほかに,前庭神経症状として眩暈・嘔吐,顔面神経が障害されると顔面麻痺が生じ,早期に治療を開始しないと後遺症が残存しやすいことは経験されています。村上先生の症例は56才の男性で,後頭部痛と耳痛で発症し,耳鼻科では神経痛と診断され,神経内科へ紹介されたそうです。来院時耳の中に水疱を認め,顔面麻痺はありませんでしたが,PCR法でHZ感染と確認され,早期に抗ウィルス薬を投与することで,顔面麻痺を来たすことなく,治癒されたということです。通常本症候群の顔面麻痺は耳痛や水疱出現から3日以後に出現してくるそうで,1ヶ月遅れて出現することもあるそうです。確かに早期発見をし,3日以内に治療を開始すれば治癒率が高いと報告されているとのことで,神経痛と思われる症例も,水疱などを見逃さず本症候群を念頭に置く必要があると思われた報告でした。

次に特別講演として筆者が座長を務め,慶応義塾大学歯科口腔外科専任講師の和嶋浩一先生による「口腔顔面痛からみた頭痛-歯痛が頭痛になり,頭痛が歯痛に,そして頭痛と歯痛が-」が講演されました。口腔顔面痛(OFP)という分野は,まだ日本ではなじみが薄いようですが,海外ではかなり活発に研究がすすんでおり,和嶋先生はその分野の日本での指導者の1人です。痛み全般について,侵害受容性,ニューロパシー性,心因性と分けると,OFPではニューロパチー性疼痛が重要であるということです。インプラントなどでも機械的刺激や熱刺激で末梢神経が変性をきたし,ニューロパチー性疼痛を来たしてくることがあり,インプラントが太い神経に触れていないから痛みが起こるはずがないと思っていると大間違いと,現在の治療に内在する問題点を指摘されました。また頭痛と歯痛との関連としては,三叉神経の3本の枝を介する関連痛としての繋がりがあり,和嶋先生は「三叉神経の枝を介して痛みの情報をキャッチボールしている」と表現されていました。側頭動脈炎や顎関節症についても話され,新頭痛分類にも歯や顎の痛みが頭痛として感じられるものや,関節性顎関節症による頭痛,無痛覚痛(Anesthsia Dolorosa),脳卒中後の顔面痛,非定型顔面痛,舌痛症などが分類されていることを報告されました。また頭痛と歯痛はよく一緒に起こるのですが,口腔外科領域からの頭痛としては顎関節周囲の筋・筋膜性疼痛の関連痛が重要であることを話されました。また群発頭痛の関連痛としての歯の痛みを歯が原因と間違われることがあるということや,現在では非歯原性歯痛という用語が使われていることも話されていました。トピックスとしては,痛みのキャッチボールは三叉神経のみの限らず,三叉神経脊髄路核を介して,第2頚神経(大後頭神経の本幹)とも相互に情報をやりとりしていることが最近分かってきて,末梢神経からくる刺激が加重現象により,中枢の神経過敏を引き起こしている,という話題を話されました。この考えにより,片頭痛の患者が異痛(アロディニア)を起こしてしまうとトリプタンが効きづらくなることの説明もでき,トリプタンを早めに服用するべき根拠となるようです。また片頭痛が慢性化する場合,肩こりが関係しているのも,空間的加重(spatial summation)と時間的加重(temporal summation)の考え方で,中枢性過敏を起こしていると考えれば,十分納得が行きます。非常に内容の深い意義のある講演だったと思います。

フロア-からの質問の質疑応答にも,和嶋先生は丁寧に答えられていました。座長が本勉強会を締めくくり,共催メーカーのエーザイから謝辞が述べられ,本勉強会を終了いたしました。次回は来年春の開催を予定しております。

今回は準備段階でかなり落ち度があり,本勉強会顧問の諸先生方はじめ,多くの本勉強会を楽しみにしておられた先生方,コメディカルの皆様方には大変なご迷惑をおかけしたことをお詫びいたします。次回はこのようなことが無いように準備万端で幹事一同準備いたしますので,是非ご参加ください。案内は予定が決まり次第,当HP掲示板に掲載いたします。(文責 北見)
 
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